荒れ狂った高波が岸壁に激しくうちつけられ、波しぶきが霧雨のように辺りに飛散する。絶え間なく吹き荒れる暴風は時折看板やプレハブ小屋の屋根を運んで行き、とてもデンジャラスな状態だ。そしてその中を、数人のサーファー達が狂喜乱舞しながらサーフィンを楽しんでいた。
「いやぁ、来てよかったなぁ」
　俺は腕を組みながら満足そうにウンウンと頷いた。
「全然楽しくないですぅ〜！ご主人様なんてキラ〜イ！！」
　横ではエイミーがポツリと不満を漏らす。
「一体、どこが気に入らないんだ？みろ、この雄大な景色を。荒れ狂う海、咆哮をあげる風、こんなに力強い景色はそう見れるもんじゃないぞ？」
「エイミー、こんな景色みたくないですぅ！！エイミーはぁ、あお〜いおそらの下でご主人様と楽しくビーチバレーやったりスイカ割したり、一緒に泳いで水をバシャバシャってかけっこしたかったんですぅ！！」
「そんなこと言われてもなぁ……こんな天候だし……」
　俺は空を見上げた。ただでさえこんな状況なのに、空は今にも泣き出しそうなほど、どんよりと厚い雲で覆われている。
「仕方ないだろ？台風が接近中なんだから」
「ううっ……」
「お前がいけないんだぞ？急に海にいきたいなんて言い出すから」
「エイミー、台風っていうものを経験してみたかったんですぅ」
　エイミーの表情は今にも泣き出しそうだ。
　まっ、仕方ないよな。
　俺は改めて空を見上げた。
　そう、今は台風が接近中なのだ。そのためよほどの物好きでなければ海に入ろうとしない。
　もうこの地に来てから３日が経とうとしているが、一向として天候が回復する様子はなかった。
　それもそのはず。予想以上に台風の進行が遅いのだ。そのため気象予報士の人達も手間取ってるくらいだ。
　こんな、各メディアの予想がこぞって外れるというのは、ここ最近は見なかったような気がする。それほどこの台風は手ごわかった。
「ほれ、そろそろ宿の方に戻るぞ」
「ううっ〜」
　エイミーは恨めしそうに空を見上げた。
　今度の旅行を一番楽しみにしていたのは、当然のことながらエイミーであった。
「わーい！！ご主人様のためにぃ、エイミー、ステキな水着用意しちゃいますねぇ〜」
とはしゃいでいたのが昨日のように思い出される。
　確かに家を出た当初は雲１つない晴天が広がっていた。誰もこんな天候になるなんて予想できなかっただろう。
　まったく、自然とはこうまで雄大にして偉大なものか、と改めて認識させられたのだった。
「ほら、置いてくぞ？」
「クスン……明日こそお日様が顔を出しますように……」
　エイミーは一生懸命お祈りをすると、俺と一緒に宿へと戻っていった。
　……とはいっても、明日で帰るんだけどな。
　この天候じゃ回復を望むのは酷かな……
　案の定、次の日も天候は回復することなく、むしろ酷くなってしまい、俺達はそのまま帰路につくのであった。