新たなたいまつに火を灯したルディは、今まで持っていた、火の消えかけたたいまつをその場に起き、階段を降りていった。
　石段は古く、所々ボロボロと崩れ、ひびが入っている。
（なんでこんな洞窟に階段が……盗賊達が掘ったのか？）
　ルディは思考を巡らせるが、それよりも先ほどの怪物の存在が、ルディの本能に危険信号を伝え続ける。
（それにしても危なかった……あの吸血鬼、怪物がいるなんて一言も言ってなかったのに！あんなのがいるとなると、この先にもいるかも……）
　ルディは引き返したい気持ちでいっぱいであったが、怪物よりも怖い吸血鬼に睨まれているため、それもままならない。
（ああ、どうしてボクはあんな家に生まれてしまったんだろう……ボクは呪われてるんだきっと……）
　ついには自分の生い立ちまで呪い始める。それほどルディは悲観的になっていた。
　階段を降りきると、道が先へと続いていた。
「…………」
　耳を澄ませてみるが、何も聞こえてこない。
「……何も出ませんように……」
　そう呟き、歩を進める。
　たいまつの炎で薄く浮かび上がる岩肌が、まるで不気味に笑っているようで、ルディは戦慄を覚えずにはいられなかった。
　しかし、幸いなことに一本道であったので、ルディは立ち止まることなく、先へと進む。
　怪物の気配もない。
（さっきの怪物は、たまたま住み着いた奴だったのかな？）
　ルディの心に、いくらか余裕が芽生える。
　やがて歩いているうちに、明らかに雰囲気の異なる場所へと出た。
「ここは……」
　ルディはたいまつを天高く掲げる。
　そこはルディがジャンプしても手が届かないくらいの高さに天井があり、かなり広い。
　先ほどまで見えていた壁の岩肌も見えなくなっていた。
「こんな広い場所があるんだ……」
　ルディは中へと足を踏み入れ、まっすぐ歩く。
　不意に、背後に殺気を感じた。
「！！」
　ルディは本能的に斜め前へと倒れる。
　同時に、ブォンと言うものすごい音と風圧がルディの頭上をかすめる。
　パラパラと落ちる髪。
　ルディはたいまつを放して地面と激突するや、すぐさま反転し、身を起こしてたいまつを拾い上げ、後方へと飛び退く。
　そして、たいまつを前方に掲げた。
「！！」
　そして、そのまま言葉を失う。
　目の前には、巨大なファルクが二本足で立っていた。
　体長は3Mくらいあるだろうか。
　先ほどルディが倒したファルクとは比較にならないほどの殺気を放っている。
（そういえば、聞いたことがある！）
　ルディは昔、父から言われたことを思い出した。
　ファルクの中には、長年生きることで、体を大きくするものがいる。
　それは「キングファルク」と呼ばれており、その怪物はとても凶暴で、２足歩行し、見境なく人間を襲ってくる。危険は普通のファルクの比ではないので、遭遇したら気をつけろ、と教えられていた。
（まさか、そんなレア怪物にこんなところで遭遇するなんて！）
　ルディは自分の不運を呪うしかないが、今更言っても始まらない。
「グルルル……」
　キングファルクは、殺気に満ちた唸り声を上げながら、ルディに近寄ってくる。
（……このままじゃ殺される！）
　そう直感したルディは、たいまつを地面に置き、剣の柄を両手でしっかりと握った。
（こ、こんなところで、死にたくないっ！）
　ガタガタ震えながらも、キングファルクを見据え、一歩一歩後ずさりする。
　ガクン
「わわわっ！？」
　不意に、何か堅いものを踏んだルディは、バランスを崩し、後ろ向きに倒れた。
「てててっ……！」
　全身に鈍痛が走る。
「ガオオオオオオオオオ！！！！」
　その隙を逃さず、キングファルクがルディに覆い被さるように飛びかかってきた。
「わ、うわああああああああああっっ！！」
　ルディは無我夢中で剣を前に突き出す。
　グサッ
　鈍い感触。生臭い血の臭い。
　流れる静寂。
　ルディは目をこらして、それを眼に焼き付ける。
　自らの剣が、キングファルクの心臓部を貫いていた。
　ルディは起き上がり、剣を引き抜く。
　無言のままその場に崩れ落ちるキングファルク。
　心臓を貫かれたことで、既に絶命していた。
　ルディは剣を二度三度振って、剣を鞘に収める。
　そしてそのまま、すとんと尻餅をついた。
　全身から急激に力が抜けていく。
「あ、あははは……」
　ルディの口から、乾いた笑い声が漏れた。
「助かった……」
　そして、大きくため息をつく。
　高鳴る鼓動が収まらない。
「はぁ……」
　ルディは再度ため息をついた。そして立ち上がる。
　たいまつを拾い上げ、転んだところを照らした。
　そこには、大きな石のようなものが落ちていた。
「何だろうこれ？」
　ルディはその物体を拾い上げる。
　それはルディのこぶし大の大きさの物体で、とても堅く、赤くキラキラと光っていた。
「とりあえず、持って帰ろっと」
　ルディはそれを、持ってきた袋の中に入れる。
　それから、周りを歩き回った。
「……あれ？」
　そして、洞窟の中に存在するものとしては、明らかに不自然な、鉄の扉を見つける。
「ひょっとして……」
　ルディは扉の取っ手を持ち、手前に引く。だが扉はびくともしない。
「硬いなこれ……」
　ルディはたいまつを置くと、両手で扉の取っ手を持った。
「ふぬぅ！！」
　顔を真っ赤にし、力一杯引っ張る。
　そして、扉はゆっくりと鈍い音を立てながら開いた。
「ハァ、ハァ……」
　ルディは肩で息をしながらたいまつを拾い上げ、中を照らす。
「うわぁっ！」
　そして息をのんだ。
　果たしてそこは、まばゆいばかりの財宝で埋め尽くされていた。
　黄金の彫刻像、銀の陶器、色とりどりの宝石。
「凄いなこれ……」
　その光景に圧倒されながらも、ルディはその空間へと足を踏み入れる。
「さて、あの吸血鬼に似合いそうな服は……」
　ルディは辺りを見回す。
「その服は……キラキラしすぎてて駄目だな。そっちの服は……スカートの部分がスリット入りすぎてて絶対文句言われる。こっちの服も、胸の辺りの露出高すぎとかいって怒られるな……ううん……」
　ルディはいろいろと手にとってはだめ出しして戻す。
　なかなかいいものが見つからない。
「ホント、あの吸血鬼は文句が多すぎるんだよなぁ……」
　ルディはぼやきながら、他の衣服も手に取っては戻す。
　そして。
「これは！！」
　ようやく、納得のいくものが見つかった。
　それは純白のドレスで、露出もあまりない。
　何より、ルディにはその服自体に、清楚な感じがした。
「これにしよう！」
　ルディは持ってきた袋の中へ、それを入れる。
「待ってろよ吸血鬼！ギャフンと言わせてやるからな！！」
　そして拳を力強く握りしめた。