チッチッチ……
　秒針を刻む音が、静かに事務所の中に鳴り響く。
　真剣な眼差しで、対峙する一人と一匹。
　そして、固唾を呑みながらその様子を見守るギャラリー。
「フフフ……なかなかやるわねエロガエル。流石はセシルの使い魔だけのことはあるわ」
　その真剣な眼差しの一人、天刀もよは額に汗を浮かべながら、ニヤリと笑う。
「お前もな。ただの色ぼけ事務員かと思ってたが、我輩をここまで追い詰めるとは」
　そしてもう一匹の、カエル姿のナナジーニィも、いつになく真剣な表情を見せる。
「でも、これで終わりよ！あたしは『法廷の聖女』を攻撃表示で召喚！さらに装備魔法『乙女の羽衣』を発動！聖なる闇夜を切り裂いて、いざ約束の地に降り立たん！魔法召喚！『弁魔の戦乙女』！」
「ぬう！それは伝説のレアカード！！どこでそんな物を！？」
「言ったでしょ！あたしは絶対負けないって！『弁魔の戦乙女』の攻撃！エロガエルにダイレクトアタック！」
「させん！させんぞ！！リバースカードオープン！！『蜂蜜の悪夢』！！このカードは敵が攻撃をしてきた時に発動！相手の攻撃力を０にする！！」
「そ、それは幻のトラップカード！そんな物を持っているなんて……！」
「フフフ……我輩とセシルの絆を舐めるなよ。お前如きに、セシルは渡さんよ！」
「言ってくれるじゃない。どうやらこの闘い、長くなりそうね……」
「そうだな……」
　そして、お互いに低い声でフフフと笑う。
「すみませーん！遅くなりました！！」
　と、その時、セシルが息を切らせながら事務所の中に入ってきた。
「ちょっと、警察での手続きに手間取っちゃって……あれ？」
　セシルは、事務所の一角で盛り上がってる集団に気がついた。
「何してるんですか？」
　不思議に思い、近づく。
　しかし、誰もセシルの存在に気がつかない。
「何やってるんだろう……？」
　セシルもその一団に加わり、その様子をうかがう。
「ひっ！！」
　そして、声にならない悲鳴を上げた。
　その視線の先、机の上には、水着姿のセシルや、蜂蜜を頭からかぶっているエプロン姿のセシルの写真があったのだ。
　さらには寝顔を激写された写真や、お風呂上がりの写真まである。
「なななっ、何やってるのよー！！」
　セシルは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、悲鳴を上げながら机の上に覆い被さった。
　そして写真を隠す。
「もよよん！ナナジーニィ！！何してるのよ！！！」
　そして交互に二人を睨み付ける。
「あーあ、ノーゲームね」
「そうだな」
　一人と一匹は、互いに手札として持っていた写真をテーブルの上においた。
　そこには子供の頃のセシルや、着替え中のセシルが写っている。
「こ、こんな物持ち出して！！一体どういうつもり！？」
「いやぁね、このカエルが『セシルのお宝写真を見てみるかい？』なんていうもんだから、ついあたしも対抗して見せたくなっちゃって」
「我輩と同等に語り合えるとは、セシルよ、いい友を持ったな」
　そんなお互いに健闘をたたえ合い、頷き合う二人にセシルは抗議の声を上げた。
「二人とも、今すぐ出頭してください！！絶対に弁護しませーん！！」