「隊長！！ここはもうだめです！！防ぎきれま……ぐわああああああ！！」
　部下の悲痛な叫びが爆音によってかき消される。
　調停機構第三軍事都市ウスワイアはまるで地獄絵図を見ているような戦場と化していた。
　銃弾、爆撃、砲弾、ミサイル……ありとあらゆるものが飛び交っている。
　北７ｋｍの地点に第４軍事都市リオガエゴスがあるものの、南５ｋｍの地点、さらには東１０ｋｍの地点には、それぞれ敵対する軍政権国の軍事都市プンタアレナス、エスケルが存在している。
　調停機構と軍政権国の戦争は山場を迎えていた。主用湾岸都市を押さえた調停機構に対し、軍政権国は圧倒的な兵力を持って立ち向かうことを宣言、直ちに進軍を開始した。その手始めがウスワイア占領、というわけである。もしここを軍政権国に奪われるようなことでもされれば、調停機構の打撃は計り知れない。軍事政権国への最前線基地を失うと共に、最悪の場合総崩れになる恐れもある。そのために、何としても死守しなければならなかった。
　調停機構軍第六機動歩兵隊隊長、ウーイッズ＝ハイアン大尉は前夜、調停機構軍北部方面司令ルー＝マックス元帥に勅命を受けた。
　ある作戦の為に命を捨ててくれ、と。
　最前線に配備されていたウーイッズ大尉はいつかはこのような日が来るとは自覚していながらも、いざ現実のものとなると足が震え、身体が硬直し、恐怖のあまり発狂しそうになった。
　しかし、もしここを破られるようなことをすれば、それこそ軍政権国の世界征服を招いてしまうことになる。
　それは絶対に許されないことであり、ウーイッズ大尉は己の運命の覚悟をきめた。
　作戦内容は、第六機動歩兵隊がウスワイアの守備につき、手薄な守りと見せかけて敵をおびき寄せ、一網打尽にするというもの。
　もし作戦を見破られれば部隊の犬死、壊滅となってしまう恐れがある。それだけに失敗は許されない。
　ウーイッズ大尉はルー元帥の部屋を後にすると家族への遺言ともいえる手紙を書いた。涙で字がかすんでしまうほど、見栄えは悪くなってしまったが、最愛の妻、そして娘への別れを残すことができた。
　そしてついに、軍政権国の大部隊が進行してきた。
「隊長！！敵がついに攻めてきました！！」
「そうか……それで、敵の数は？」
「も、ものすごい数です！！機動歩兵部隊が３２、補給車両部隊が８、戦車部隊が１０、それから戦闘機部隊が多数です！！」
「報告ご苦労」
　ウーイッズ大尉は報告を聞き終えると、選ばれた勇士達に向かって演説を始めた。
「聞け、みなのもの！！我等がここを死守すれば必ず道は開ける！！死ぬのを恐れるな！！全世界の民の為に、そして愛する人の為に戦いぬこうではないか！！」
「おおっ！！」
　敵は２つの都市に部隊を集中させ、一気に攻めこんでくるような素振りを見せた。そしてその先方隊ともいえる機動歩兵部隊が１０隊攻めこんできたのだ。
「くそっ！！ここまでか……」
　ウーイッズ大尉は下唇を強くかんだ。もしここを突破されれば後がない。時間稼ぎは十分にできたのか？あの手紙はちゃんと届いたのか？
　大尉は薄れゆく意識の中で、かけていたロケットを静かに開いた。
「すまない……メイアー……アメリア……最後にもう一度、お前達に会いたかった……」
　そしてウーイッズ大尉は、そのまま眠るように死んでいった。

「そうか……全滅か……」
　最後の連絡が途絶えたことを確認したルー元帥は、戦艦アイオワのブリッジで静かに死者への黙祷を捧げていた。
「ウーイッズ君……おかげで貴重な時間が稼げた。君達の死は決して無駄にはしないぞ！！」
　ルー元帥は伏せていた目を見開くと、力のあらん限りの張り裂けそうな声で命令を発した。
「これより総攻撃をかける！！勇気あるものたちの死を、決して無駄にしてはならない！！」
　この命令は、ただちに湾岸を取り囲んでいたフリゲイト艦「ラファイエット」、駆逐艦「アーレイバーク」「こんごう」、巡洋艦「スラヴァ」「バンカーヒル」「アドミラル・ウシャコフ」、ＶＴＯＬ空母「アドミラル・ゴルシコフ」、空母「ニミッツ」「アドミラル・クズネツォフ」「シャルル・ド・ゴール」、ミサイル原潜「タイフーン」「オハイオ」「ヴァンガード」に伝えられた。
「よし行くぞ！！」
　同志の死に奮い立った大部隊は、直ちに反撃を開始した。
　巡航ミサイル、弾道ミサイルが次々と発射され敵の軍事都市に襲いかかる。
「た、隊長！！我が軍の都市が壊滅しました！！」
　と、敵の先方部隊が報告を受けたときには、既に砲弾の照準を会わせているときであった。
「撃てー！！」
　ルー元帥の命令の元、一斉艦砲射撃が行われる。たちまちのうちに敵機動歩兵部隊は全滅した。
　さらに、空母から飛び立った戦闘機部隊、爆撃機部隊が補給路をたたれた敵部隊の殲滅を行う。
　この作戦によって戦力の大半を失った軍政権国はこれ以上戦いを継続することは困難と判断し、降伏勧告を受け入れた。