ついに、ついにここまでやってきたんだ……
　トラン湖に浮かぶ解放軍の本拠地で、湖畔に浮かぶ月を見ながら僕はそう思った。
　グレッグミンスターを追われてからもうどれくらいの月日が流れたのだろう……
　目を閉じれば走馬灯のように数々の出来事が蘇ってくる。
　テッドからソウルイーターを受け継いだこと。
　一番信頼できたグレミオの死。
　避けては通れなかった父との対決……
　グレミオ……
　僕は伏せていた顔をあげた。
　夜空に浮かぶ丸いお月様が、グレミオのあの屈託のない笑顔に見えてくる。
　グレミオ……ようやく僕はここまでくることができたよ。
　これも全部グレミオが見守っててくれたおかげだよ。
　あの時グレミオが助けてくれなければ、僕はここまでくることはできなかった。
　明日、いよいよ最後の決戦に赴くよ。
　グレミオや父さん達と一緒に楽しく暮らした、あのグレッグミンスターの地に。
　この戦いが終わればみんなが幸せに暮らせる平和な時代がやってくると思うんだ。
　グレミオのような、悲しい人間がいない時代が。
　それで、僕はこの戦いが終わったら旅に出ようと思ってるんだ。
　テッドのような人間が他にもいるかもしれない。
　僕は、そう言った人達を助けたいし、それに、それが僕に架せられた運命のような気がする。
　それに、グレミオがいない家に帰っても……
「！」
　不意に背後に人の気配がしたので、僕はとっさに身構えた。
「誰？」
「よう！」
　恐る恐る後ろを振り向くと、熊のような風体の人が立っている。
「なんだ、クマさんか……」
　僕はホッと胸をなでおろした。
「おいおいクマさんはないだろ？俺にはちゃんとビクトールっていう立派な名前があるんだぜ？」
「でも、クマさんはクマさんだよ」
　クマさんは苦笑いしながら僕の横にきた。
「いよいよだな」
「うん……ここまでくるのに長い道のりだったね……」
　僕は再び視線を月に戻した。クマさんもそれにあわせて月を見る。
　沈黙が支配する中、冷たい風が吹きぬけていった。
「なぁ……」
　クマさんがふと口を開いた。
「なに？」
「この戦いが終わったら、その……なんだ……」
「『なんだ』って……？」
「だから、その……お、俺と一緒になってくれないか！？」
「えええっ！？」
　突然の告白に僕は思わず目が点になってしまった。
「だ、だって……」
「俺は真剣なんだ！！」
　ガシッと、クマさんに両肩をつかまれる。
　クマさんの表情は怖いくらいに真剣だ。
　なんだか心臓の鼓動がどんどん高鳴っていく。
　それに、この感じたことのないような気持ちは何？
　ひょっとして、僕もクマさんのことが……
「なぁ、やっぱり……ダメ……か？」
　クマさんの問いかけに、僕はふるふると首を振った。
「ダメなんて事はないよ。僕も、クマさんのこと好きだから」
「そ、それじゃあ！」
「こんな僕でよければ……」
　僕はニコッと微笑んだ。
　瞬間、クマさんに力強く抱き寄せられる。
「あっ……」
　クマさんの唇が僕の言葉を遮った。
　少し強引な口づけ……それはとても長いものに感じられた。
　やがて、クマさんと僕は互いの唇を静かに離した。
「もう、クマさんってば強引なんだから……」
「スマン、ついおさえきれなくって……」
「いいよ……クマさんだから許してあげる」
　僕は恥ずかしそうに俯きながらクマさんに寄りそうように身を預けた。
「今夜は寝かさないぜ？」
「もう、クマさんってばエッチなんだから……」
　クマさんは僕の肩に腕をまわすと、僕の部屋へと向かって歩き出した。
　静かな湖畔に浮かぶ月の薄光が、僕達を祝福してくれているようだった。