ある冬の日の放課後、晶がいつものように同好会（非公認）の活動を行っている教室へ行くと、飛鳥がいつにも増して気分を昂ぶらせた様子で、晶を待ち構えていた。
「ど、どうしたの飛鳥？」
　嫌な予感を巡らせながらも、晶は恐る恐る飛鳥に尋ねる。
「ふっふっふっ……」
　しかし飛鳥は、晶の質問に答える代わりに、腕組みをしながら目を瞑って低い笑い声を上げる。
「あ、飛鳥？」
「ふっふっふっ……わーはははははははは！」
「た、大変！飛鳥がおかしくなっちゃった！！」

　ぽか！

　たちまちのうちに飛鳥の鉄拳が晶の頭の上に振り下ろされる。
「いったぁ〜い！」
「あたしはおかしくなんかなってないわよ！！」
　涙目になる晶を飛鳥は睨みつけた。しかしすぐさま表情を戻すと、晶に尋ねてきた。
「ねぇ晶。今日は何の日だか知ってる？」
「えっ？知らないけど……」
「駄目だなぁ、晶は」
　飛鳥はぴんと伸ばしたひとさし指を左右に振ると、したり顔で晶に話した。
「今日は、男の子に『ちょこれえと』っていうお菓子をあげる日なんだって。海の向こうにある国じゃ、毎年行われてるって先生が言ってた」
　飛鳥は隠し持っていた包みを晶に見せる。
「異人さんのお祭？でもそれがどうかしたの？」
「馬鹿ねぇ晶。生徒会長に『ちょこれえと』をあげるんじゃない」
「ま、まさか飛鳥……それで生徒会長を毒殺する気！？ああ飛鳥ってば、なんて恐ろしい子……」

　どげし！！

　間髪をいれず飛鳥の鉄拳が晶に命中する。
「きゅ〜……」
「そんなことするわけないじゃない。これで生徒会長のご機嫌をとって、我が『ぱずる同好会』を正式に承認してもらうんじゃないの」
「そんなにうまくいくかなぁ〜……」
「いかせるの。ほら、行くわよ」
「あ、待ってよぉ〜」
　二人は教室を出ると、生徒会室へと向かった。

「失礼します！！」
　飛鳥が勢いよく生徒会室の戸を開けると、そこには誰の姿もなかった。
「あ、あれ？？」
　肩透かしを食らった格好の飛鳥は呆然としながら晶に話しかけた。
「何で生徒会長いないの？」
「あっ、そう言えば……」
　晶は思い出したようにぽんと手を叩くと、得意げな表情を作って飛鳥に話した。
「お腹が痛いって、お昼に早退したよ」

　ぽか！

「いったぁ〜い！」
「そーゆーことは早く言う！」
　非難めいた眼差しを送る晶に飛鳥はこめかみを震わせる。
「でもまぁ、いないんじゃしょうがないかな？」
　飛鳥は溜息をつくと、持っていた包みに手紙を添えて机の上へと置いた。
　そして、やはり隠し持っていた包みを晶に手渡す。
「はい、これ」
「えっ？」
「驚くことないじゃないの。これは晶の分」
「飛鳥……」
　晶はその包みを受け取ると、飛鳥を見た。
「これ……毒入ってないよね？」

　どげし！！

　瞬く間に飛鳥の鉄拳が晶に炸裂した。