３日間安静にしてた甲斐もあってか、元気になった俺は数日振りに学校へと来ていた。
　雄二に茶化されまくったこと以外はこれといって変わったことはなく、昼休みになった。
「河野くん」
　４時限目の終業チャイムがなるや、愛佳が俺の席へとやってきた。
「あのね河野くん、お昼どうするの？」
「お昼？雄二と一緒に学食行こうかなぁ、って思ってたんだけど……でも、それがどうかしたの？」
「あ、あのね……」
　愛佳はもじもじしながら俺を見る。
「？」
「そ、その……」
「その？」
「だ、だからね……そ、その、河野くんさえよければ、お弁当……」
「お弁当？」
「お、お弁当作ってきたから……食べてほしいな……なんて……」
「…………ええええええっ！？」
「お、屋上で待ってるから！」
　愛佳はそれだけ言い残すと、まるで脱兎のごとく教室を飛び出していく。
「貴明！！コ〜ノ〜ヤ〜ロ〜！！」
　途端に雄二が絡んでくる。
「お前、いつの間にいいんちょとそんなにいい仲になったんだ！？『貴明くん、お弁当の次はあたしも食べてね』な展開、恥ずかしくてみてらんなかったぜ！」
「な、なんだよそれ！！」
「わかってるわかってる。みなまで言うな。このみや姉貴には俺からちゃんと言っておくから」
「だ、だから……」
「結局お前は、俺の友情よりもいいんちょとイチャイチャする方をとったわけだ！だがそれもいいだろう。お前がホモじゃないって言う何よりの証明になるからな！」
「ひ、人の話を……」
「そんじゃ、頑張れよー。ついでに迷惑料として後でなんかおごれよなー」
「お、おい……」
　雄二は一方的にまくし立てると、ニヤニヤしながら教室を出て行く。
　あいつ、なんかとんでもないこと言ってなかったか……
「はぁ……」
　俺はため息をつくと、愛佳に言われたとおり屋上へ行くことにした。

　屋上へ出ると、まず晴れ渡った青空が飛び込んできた。
　雲ひとつないピクニック日和。
　いや、ピクニックじゃなくって弁当をご馳走になるんだけど。
　さてと、愛佳の奴はどこに……あれ？
　俺は首をかしげる。ベンチに座っていたのは、愛佳ではなく由真であった。
　ひょっとして愛佳の奴……
　俺はあることを確信すると、まっすぐと由真の元へと向かう。
　そして由真の隣へと座った。
　ちょっとの間、無言の時が流れる。
「……はい、これ」
　先に言葉を発したのは由真のほうであった。手に持っていた包みを俺に差し出す。
「あたしの手料理、食べたかったんでしょ？」
「おう！」
　もちろん、俺は素直にそれを受け取り、包みをといた。中から小さめサイズのかわいらしいお弁当箱が現れる。
「それじゃあ由真、遠慮なく戴くよ」
「…………」
　由真はそれに答えようとせず、無言のまま俺の一挙手一投足を見守っている。
　な、なんだか緊張するな……
　俺は気体と不安に胸を膨らませながら、弁当箱の蓋を開けた。
「…………」
　そしてそのまま、動作が止まる。
　弁当箱の中には、鳥のから揚げと、カボチャの煮物、それになすのから揚げ、タコさんウインナーが入っており、白いご飯の上にはのりが文字のように敷き詰められている。で、その文字というのが……
「ハカ？」
「！！」
　途端に由真はベンチから立ち上がると、何も言わずにそのまま校舎の中に入って屋上から姿を消してしまう。
　一人残された俺に、ひゅるるーと風が吹きぬけていく。
　一体なんだってんだ……
「あっ……」
　よく見ると、ふたの裏側にのりがくっついてる。
「……ひょっとして、バカって書いたのか……？」
　……つまり、こーゆーことか？俺が弁当開いて「バカ」って文字目の当たりにして「貴明なんかにはこれで十分よ」とか言うつもりが、お間抜けな文字になってしまい、恥ずかしさのあまり逃げ出した、と……
　……あいつ……何やってんだよ。
　まぁ、折角作ってくれたんだし、食べなくちゃ悪いよなやっぱ。
　俺は１人寂しく、そのお弁当をおいしく戴いた。

　そして時間はあっという間に進み、放課後の駐輪場。
　俺は由真に弁当箱を返し気持ちを伝えるべく、１人待ち伏せをしていた。
　やっぱり由真といえばＭＴＢ。つまり、ココなら絶対に由真を捕まえることができる。
　案の定、由真はとぼとぼと元気がない様子で駐輪場に現れた。
「由真！」
　俺は彼女の目に立ちふさがるように、姿を見せる。
「きゃ！？」
　突然現れた俺に、由真は小さく悲鳴を上げた。
「な、なによ！？」
　そして非難めいた目で、俺を睨む。
「これ」
　俺はすかさず包んだ弁当箱を由真に差し出した。
「おいしかったよ。とっても。また作ってくれる？」
「…………」
　由真は驚いたように目を丸くする。
「あ、でも、今度は一緒に食べような。じゃないと寂しいから」
「……うん」
　由真は恥ずかしそうに頷き、弁当箱を受け取る。
　まぁ、一応俺達の関係も前進、かな？
　空に浮かんだ鮮やかな夕焼けが、俺と由真の顔を赤く染めていた。