「うわ〜！これが今学園で噂の新作ケーキなんですね！」
　セリナはフォークで切り分けたケーキを一口、口の中に運んだ。
「うーん！口の中いっぱいに広がる甘さ！幸せ〜！！」
　そして満面の笑みを浮かべる。
「ははは……そりゃよかったな……」
　アラタは乾いた笑みを浮かべる。
　ここは学園の近くにあるカフェ。
　学校帰りの学園の生徒や街の人達でカフェの中は賑わっている。
　そんなカフェの窓辺の４人掛けの席の一郭を、アラタとセリナが占領していた。
　デートと言われて内心ドキドキしていたアラタであったが、セリナに連行されたのが、この喫茶店だったのである。
　そして、セリナが今食べているケーキは、既に３個目だったりする。
「アラタさん！このケーキとってもおいしいです！」
「そうかい。しっかし、わかんねえなぁ」
「何がですか？」
　アラタの言葉に、セリナは首をかしげる。
「いやぁ、たかがケーキ１つでそこまで幸せになれるものなのかねぇ、と思ってさ」
「アラタさんわかってないですねー」
　アラタの疑問に、セリナはフォークを置いて、チッチッチッと中指を振る。
「女の子の８０％は生クリームでできてるんですよ？アラタさん知らなかったんですか？」
「マジで！？」
「もしお疑いなら、味見してみますか？」
　そしてセリナは頬をほんのり上気させ、上目遣いでアラタを見る。
「…………」
　ゴクリと、アラタは唾を飲み込む。
「今、エッチなこと考えましたね？」
　するとセリナは、ジト目でアラタを見た。
「か、考えてない考えてない」
　アラタは首を力強く横に振る。
「……まぁいいです」
　セリナはコホンと咳払いをすると、ケーキをフォークにさしてアラタに向ける。
「本当に、このケーキおいしいですよ。アラタさんも食べてみてください」
「い、いいよ俺は！」
　ケーキを向けられたアラタは拒否の意思を示す。
「……食べないと許してあげませんよ？」
　しかし、セリナの脅迫めいた言葉に、渋々首を縦に振った。
「わ、わかったよ……」
「よろしい」
　セリナは笑顔になり、ケーキをアラタの口元へと近づける。
「はい、アーン」
「アーン」
　アラタは口を開けてセリナに差し出されたケーキをぱくっと食べる。
「どうですか？」
「……うん、うまいな」
「ですよね！？それじゃあ、今度はアラタさんのガトーショコラを、私にください」
「……ったく、しょうがねーな」
　アラタはセリナがやったと同じように、自分のケーキをフォークで一口サイズに切り、それを刺してセリナの口元に近づける。
「アーン」
「アーン」
　セリナは差し出されたガトーショコラをぱくっと食べる。
「アラタさんのもおいしいですね」
　そして満面の笑顔を浮かべた。
「よ、よかったな」
　アラタは恥ずかしそうにしながら視線をそらす。
　もしこんな姿がリリスやアリンに見られたら、修羅場になること間違いないだろう。
　念のため辺りを確認するが、火種になりそうな人物達の姿は見当たらない。
　アラタはホッと胸をなで下ろした。
　ただでさえ修羅場間違いなしだが、これからすることは、彼女たちの嫉妬の炎に油を投入するような行為だからである。
　アラタは鞄の中から紙袋を取り出す。
　そしてセリナの前に置いた。
「な、なぁセリナ。その、もしよかったらこれ、貰ってくれねえか？」
「えっ？」
　セリナは驚いたような表情で、紙袋を開ける。
　そして中のものを取り出した。
「うわぁ」
　そして嬉しそうに声を上げる。
　それは、カメラをモチーフにした、手のひらサイズのかわいらしいマスコット人形であった。
「そ、そのよ。セリナにはいつも迷惑かけっぱなしだから、お詫びに受けてって欲しい」
「アラタさん……ありがとうございます！」
　セリナは嬉し恥ずかしそうに笑った。

　翌日。
　登校して教室に入ったアラタは、６人の少女達に囲まれていた。
「アラタ、昨日は随分お楽しみでしたね？」
「自分も、アラタさんに迷惑かけられっぱなしッス」
「お兄ちゃん、ずるいよ！セリナちゃんとデートするなんて！」
「旦那様の浮気者」
「アキオ、この不浄な男を今すぐ消してください」
「いやぁ、あたしも裸見られたから償って欲しいんだけどよ」
　みな異口同音に、アラタに迫る。
「た、助けてくれセリナー！」
　アラタはたまらず、教室に入ってきたセリナに助けを求めた。
　しかし。
「駄目ですよアラタさん？独占インタビューさせてくれなかった罰です。助けてあげません」
　セリナはその申し出を拒絶し、鞄を机の上に置く。
　その鞄にくくりつけられたマスコットに、少女一同の視線が集まった。
　すぐさまその意味を察知し、アラタに視線が集中する。
「勘弁してくれよ……」
　アラタは頭を抱える。
「クスッ。私を裸にした罰です」
　そんなアラタを見て、セリナはこっそりウィンクしながらぺろっと舌を出した。