「まったく、ヒドイよね弓子ちゃんってば。そりゃ、あたしだっていろんな魔法使ってみたいよ？でも、なんでもかんでもタライになっちゃうからしょうがないじゃない！」
「『しょうがないじゃない』……ってなぁ。お前、まだ魔法なんて迷信を言ってるのか。まったく、姉さんといいアイツといい、どいつもこいつもイカレてやがる」
　プリプリと怒るこよみの横で、聡史郎は大きくため息をつく。それがこよみの怒りを、ますます増幅させた。
「ひっどーい！！いいもん！！こうなったら、このマジックアイテムで聡史郎さんも弓子ちゃんも、ギャフンと言わせてあげるんだから！！」
　そして天高く掲げたバッグは、つい先ほどファンシーショップで購入した亀の形をしたぬいぐるみだ。
　しかも、まったく気乗りしない聡史郎を無理やり連れ込んで。
　事の起こりは数日前。姉原家の飼い猫、かたまりがこよみのマジックアイテムを使い物にならなくなってしまった事に端を発する。
「聡史郎、責任取りなさい」
　自分の飼い猫のいたずらを微笑ましく見守っていた偉大な姉の一言で、哀れ弟は、姉の弟子のお守りをさせられることになったのである。
　無論、聡史郎も反発したが、「言うこと聞かないと、しばらくご飯抜きにするわよ」という、姉の強烈な圧力の前には、いかなる抵抗も無力であった。
　そして二人は、平日の放課後、こうして買い物に来たのである。
「はぁ……」
　聡史郎はもう一度ため息をついた。
「うー！！あたし、すっごく傷ついた！！」
　こよみは頬をぷうっと膨らませて、むくれる。
「わかったわかった。じゃあその偉大な魔法とやらを、あそこでゆっくり聞いてやるから」
　そう言って聡史郎は、ファーストフード店を指差す。
「望むところだもん！今日こそ、聡史郎さんに魔法の偉大さをうんと知ってもらうんだから！」
　こよみはギュッとこぶしを握り締める。
　そしてこよみと聡史郎は、ファーストフード店に入っていった。

「お待たせ。ほら、ご注文の品だ」
「うわー。聡史郎さんありがとー」
　目の前に置かれたトレイの上に載っているハンバーガーを手に取り、にっこりと微笑んだ。
「どういたしまして……」
　聡史郎は心の中でため息をついた。
　まったくなんで俺がこんなことを……
　いくら心の中でぼやいても、どうにもならない。
　そう、ならないのはわかっていても、ため息はつきたくなる。
　姉から受けた指令はふたつ。ひとつはこよみの買い物に付き合うこと。そしてもうひとつは、こよみにハンバーガーをおごること。
　これではまるでデートそのものではないか。
　もっとも、その指令を下した姉は、姉原邸で、尋ねてきた弓子と一緒にお茶しながら、
「聡史郎？いないわよ」
「あら？お出かけでしたの」
「うん。こよみとデート中」
「な、なんですって！？」
「妬かない妬かない。いくら愛しのこよみが我が愚弟にとられちゃうからって」
「わわわ、私は別に、妬いたりなんかしてませんわ！！」
　などという会話が交わされているのだが、聡史郎には知るよしもない。
「でねでね、あたしがこーやって手を上げたら、弓子ちゃんが」
「わかったわかった。わかったから、食べるかしゃべるか、どっちかにしろ」
　ハンバーガーをパクパク食べながらしゃべるこよみの姿に、聡史郎は大きくため息をついた。

　翌日の放課後、こよみは親友に嘉穂に、昨日ゲットしたお宝を披露していた。
「じゃーん見て見て嘉穂ちゃん。またまたー買っちゃいましたー」
「よかったな森下。でも、一人で買いに行ったの？」
「ううん。聡史郎さんと」
「聡史郎さんと？」
　そしてこよみから昨日の話を一通り聞いた嘉穂は、ポンと手をたたいた。
「なるほど。つまり、森下は聡史郎さんとデートしてきたと」
　途端にこよみの頬が真っ赤に染まった。
「デデデ、デートじゃないよぉぉぉ！！」
「十人中十人が、その状況を聞いたらデートと答えると思われ」
「だ、だから、デートじゃないもん！デートじゃないもん……」
　こよみはぷくっとむくれる。だがその表情は、どこか嬉恥ずかしそうなものであった。