それは雲ひとつない、青く澄み渡った空が眩しいある日曜日の昼下がりのこと。
　高海千歌は親友の渡辺曜と共に、千歌の自室で勉強に勤しんでいた。
　千歌本人はこんな事をしたくはないのだが、「今度のテストで赤点取ったら特別補習ね」と担任から脅されては仕方ない。
　もう一人の親友、桜内梨子は所用で現在東京に行っているため、曜と二人で勉学に勤しんでいる。
　時折室内に吹き込む潮風が、軽装姿の二人を涼ませる。
　カリカリカリ
　無言の中、ノートの上から発せられるシャープペンシルの音。
　ヒュウウウ
　外から吹き込む潮風の音。
「もう飽きたー！」
　そして、シャープペンシルを放り出し、そのまま後ろに倒れる千歌の声。
「千歌ちゃーん。まだ1時間も経ってないよー」
「だってぇー……」
　曜の言葉に千歌は表情を顰める。
「スクールアイドルも勉強も頑張るって言ったの、千歌ちゃんだよー？」
「わかってるよぉ……」
　苦笑する曜の姿に、千歌は頬を膨らませる。
　勉強しなければいけないことは、言われなくても分かっている。
　分かってはいるが、千歌としては勉強よりもスクールアイドル活動を優先させたいお年頃であった。
「もう、しょうがないなぁ」
　それを分かっているので、曜も強くは言えない。
　苦笑しながらも、優しい眼差しで千歌を見守る。
「あーあ、今頃梨子ちゃんは東京で楽しいことしてるんだろうなー」
　千歌は部屋の戸を見る。
「ざーんねん。私はここでした」
　まるでその声にあわせるかのように、入口の戸が開かれる。
　そして、東京にいるはずの梨子がひょこっと姿を現した。
「梨子ちゃんお帰りー」
「ただいま、曜ちゃん。千歌ちゃん。勉強頑張ってるかなーって様子を見に来たんだけど……」
　曜の言葉に梨子は挨拶を返すと、千歌の様子を見て苦笑した。
「だってぇ……」
　千歌は頬を膨らませる。
「まぁ、こんな事になってるんじゃないかなーって思ってたから。千歌ちゃんがやる気出るように、お土産買ってきたよー」
　梨子は部屋に入ってくると、手に持っていた取っ手のついた白い紙袋を床の上に置いた。
「何これ？」
　千歌は起き上がって、紙袋をマジマジと見つめる。
「東京のお土産」
　梨子はにこやかに微笑みながら、紙袋から紙で包装された箱を取り出し、机の上に置く。
「なになに？何買ってきたの？」
　曜も興味津々といった様子で、紙に包まれた箱を見る。
「じゃーん」
　梨子が包装を解き箱を空けると、そこには苺大福が入っていた。
「苺大福だー！」
　千歌は目を輝かせるが、すぐさま大きくため息をつく。
「あーでも。今ダイエット中なんだよねー……」
　そして再び床に倒れ込む。
「あれ？千歌ちゃん食べないの？」
「うん……」
「ふーん……そうなんだー……」
　梨子は意味深に笑う。
　その表情に、曜は首をかしげた。
「梨子ちゃん、この苺大福がどうかしたの？」
「えっとね、音乃木坂の友達に聞いたんだけどね」
「ふんふん」
「μ'sのリーダーの実家が、和菓子屋さんなんだって。だからそのお店に行って……」
「いただきます！！」
　千歌は高速のスピードで起き上がるや、苺大福を両手でつかみ取る。
　そして口の中に放り込んだ。
「「あっ！？」」
　二人が唖然と見守る中、千歌は満面の笑みを浮かべる。
「おいしい……これがμ'sの味……これを食べてμ'sはスクールアイドルの頂点に……！」
「もう……千歌ちゃん、ダイエット中じゃなかったの？」
「明日から頑張る！」
「それで……勉強やる気は出た？」
「うん！すっごく！！ありがとう梨子ちゃん！！」
　千歌は3つめの苺大福に手を伸ばす。
　梨子と曜は互いに顔を見合わせると苦笑した。
「それじゃあ、私たちも食べましょうか」
「うん。いただきまーす」
　二人も苺大福に手を伸ばす。
　それからしばらくの間、二人の間で談笑がかわされるちょっとしたお茶会タイムが続いた。
　このことは三人だけの秘密ということにして。

　そして翌日。
　ちょっとしたことで口を滑らせてしまった千歌は、梨子のお土産を食べられなかった下級生組と上級生組から恨まれることになるのであった。