張り詰めた空気。
　震える鼓動。
　喉の中が乾いていく。
　背筋をピンと伸ばし、正座する俺とマリィ。
　その対面にはオヤジとオフクロが、強張った表情で俺達二人を見ている。
　テーブルのうえには湯のみに入った緑茶が４つ。
　しかし、誰もそれに手をつけようとはしない。
　いつかこういう日が来るとはおもっていたが、まさかこんな不意打ちのような形でこんなにも早く実現するとは予想もしていなかった。
　静寂が場を支配する。
「……で、だ」
　沈黙を破ったのは、オヤジだった。
「マリィさんは、功司のことをどう思っているのかね？」
「愛してます。ずっといっしょにいたいと思ってます」
　マリィも即答する。その表情は真剣そのものだ。
「ふむ……功司はどうなんだ？」
「俺もマリィのことを愛してる」
　俺も即答する。
　オヤジは困った表情であごに手を当てた。
「しかし……二人とも早すぎるんじゃないか？まだ高校生だし……なぁ？」
　そしてオフクロを見る。
　オフクロは黙ったまま、湯のみをとると緑茶をすすった。
「オヤジ、もしマリィに出てけっていうなら、俺も一緒に出てくぜ」
　俺はオヤジの目を見据えてきっぱり、そう言った。
　オヤジも黙ったまま、俺を見る。
　再び訪れる沈黙。
　重苦しい雰囲気が流れる。
「……いいじゃありませんか、あなた」
「……えっ？」
　突然発したオフクロの言葉に、オヤジは驚いた表情を見せながらオフクロを見た。
「二人とも真剣のようだし、それにとてもお似合いだと思うけど？」
「し、しかしだなぁ、母さん」
「二人とも若いんだから、好きなようにさせてあげましょうよ。それに、だらしない功司にしっかり者のマリィさんはもったいないくらいだわ」
「オ、オフクロ……」
　その言葉に俺も思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「それに、あなただってマリィさんのような人が娘になれば、鼻が高いでしょうに」
「まぁ……確かに、功司が入院してた時、ずっと付き添い続けてくれるような心優しい人が功司の嫁になってくれればいいなぁ、とは思っていたが……」
　オヤジはまたまた無言になってしまう。
　前にマリィから聞いたんだが、魔法によって、瑞希と静乃を除いた連中は、みんな俺がマリィを助けるために車道に走りでて、そしてマリィの身代わりにトラックに跳ね飛ばされたと思っているらしい。そしてマリィは重傷を負った俺を責任を感じて看病し続けていた、と言うわけだ。
　額から流れ落ちる汗。
　高鳴って行く動悸。
　やがて、親父はおもむろに口を開いた。
「……わかった。二人の仲を認めよう」
『えっ！？』
　俺とマリィはその言葉に、互いの顔を見合わせた。
「ほ、本当かオヤジ！？」
「ああ、もちろんだとも。なあ、母さん？」
「ええ」
　オフクロも微笑んでそう答える。
「お義父様、お義母様、ありがとうございます！！」
　マリィは勢いよく頭を下げた。
　ゴン！！
　物凄い音がする。
「マ、マリィ！？」
「いったぁぁぁっ！！」
　テーブルの角に額をぶつけたマリィは涙目になりながら額をさすった。
　少しだけ赤く腫れあがっている。
「大丈夫か、マリィ？」
「う、うん……」
　マリィはエヘヘと笑った。
　オヤジとオフクロもその光景を見て笑い出す。
「それじゃあ、今日は新しくマリィさんが家族の一員になったってことで、パーティーだな」
「そうね。丁度クリスマス・イヴだし、たまには家族水入らずで過ごすのもいいわよね」
　オヤジとオフクロもとても上機嫌に、そう話す。

　そしてその夜、盛大なパーティーが行われた。
　これでマリィは本当の意味での牧村家の一員になった。
　とても嬉しそうなマリィ。
　この笑顔を見ていると、俺はマリィと一緒にいることができてとても幸せだと思う。
　何故ならマリィは、俺に取ってかけがえのない大切な女性なのだ。
　もう、彼女を悲しませるようなことは絶対にできない。
　これからは、俺がもっとしっかりして彼女を守っていかなければ。
　きれいな星空が浮かぶ夜空の下で、夜風にあたりながら、ベランダで俺達は互いに見つめあっていた。
「マリィ……愛してるよ」
「功司君……あたしも愛してるよ」
　そして俺達は、静かに互いの唇を重ね合わせた。
　そう……この幸せな時がいつまでも続くように、と願いを込めながら。