４時限目の授業も終わり、昼休みが訪れると、俺と沙夜は屋上へとやってきた。
　空はすっきりとした秋晴れの天気で、街の景色がよく見渡せる。
　屋上には俺達以外の姿は誰もなく、まさにかしきり状態だ。
「沙夜、腹減ったぁ〜」
　俺はドカッと腰を下ろすと、沙夜に弁当の催促をした。
「もぅ、功司君ってば。お弁当は逃げたりしないよ」
　沙夜は笑いながら腰を下ろすと、バックの中からバスケットを取り出す。
「なんだ？今日はサンドイッチなのか？」
「うん。そうだよ」
「随分と少ないなぁ……」
「大丈夫だよぉ。こっちもあるから」
　俺の不満気な声に、沙夜はさらにランチボックスを取り出した。
「おお。ちゃんとあるじゃないか。で、何が入ってるんだ？」
「それはあけてからのお楽しみだよぉ」
「ってことは、開けていいんだな？」
「うん」
　沙夜はニッコリ笑って頷く。
「何が入ってるのかな……」
　俺は期待に胸を膨らませ、そのランチボックスのふたを開けた。
　中からおいしそうなから揚げや玉子焼き、ポテトにレタスにプチトマトといった色鮮やかな料理が姿を現す。
「とってもおいしそうだな」
「うん。ちょっと頑張っちゃった。だから……」
　沙夜は笑うと、箸でから揚げをつまんだ。
「はい、アーンして」
「……えっ？」
　突然の沙夜の行動に、俺は戸惑いを覚える。
「どうしたの功司君？ひょっとして、あたしの料理が食べられない、とか……？」
　沙夜は表情を曇らせ、悲しそうに呟いた。
「……わかったよ……アーン……」
　観念した俺は、大口を開ける。
「はい♪」
　沙夜は嬉しそうに俺にから揚げを食べさせた。
「どう？おいしい？」
「ああ。すっごくおいしいよ。沙夜の想いがたっぷり詰まってて」
「功司君……」
　沙夜はうっすらと頬を赤らめると、街の景色に視線を移した。
　俺も沙夜と同様、街の景色を眺める。
　天気がいいおかげで、なかなかいい眺めだ。
「見て、功司君」
　沙夜はそう言って、あるところを指差した。
「うん？」
　俺もその沙夜の指差す方向を見る。
　そこには橋があった。
　あそこは……
「懐かしいよね」
「ああ、そうだな」
　沙夜の言葉に、俺もコクリと頷く。
「あっちの世界では霧がかってて、対岸が見えなかったんだよね」
「そうだな」
「あたし……こっちの世界に来れてよかった……」
　沙夜はそっと身を寄せてくる。
「俺も……同じ気持ちだよ……」
　俺は、そんな沙夜の肩に手を回し、いつまでも街の景色をじっと眺め続けるのであった。