ピピピピピピピピピピピ
「う、うーん……」
けたたましく鳴り響く目覚まし時計のアラーム音を止め、もう一度夢の世界へ。
……………………
…………
……
「！！」
慌てて目を開け目覚し時計を手に取り、時刻を確認する。
どうやらまだ５分しか経っていなかったらしい。
「ほっ……」
安堵のため息をつき、目覚し時計を定位置へ。
そしてゆっくりとベッドから抜け出す。
いきなり初日から遅刻しちゃまずいもんな。
彼女との約束。それをいきなりすっぽかすわけにはいかない。
着替えてカーテンを開け、軽めの朝食をとり、家を出る。
まだ時間が早いとはいえ、今日はこのみの家に寄っている暇はない。
「なんで先に学校に行っちゃうの！？タカくんの意地悪！」とか後で文句を言われそうだが、その時はその時だ。
俺は足早に、その約束の場所へと向かう。この時間なら十分……あっ！
前方の交差点に見慣れた人物を発見し、俺は小走りになった。
「おはようございます。貴明さん」
俺が到着するのを待ってその少女は屈託のない笑顔を浮かべながら、俺にぺこりとお辞儀をした。
「おはよう、草壁さん。随分と来るの早いんだね」
「はい。貴明さんとご一緒に登校できると思うと、嬉しくってつい」
彼女、草壁優季は少し恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「そう言う貴明さんも早いですよ？昨日約束した時間にはまだ十分早いですし」
「ああ、俺って結構寝坊すること多いから。それに初日から草壁さんを待たせちゃ悪いかなぁって……！？」
突然、彼女の人差し指が俺の言葉を遮るかのように唇に当てられる。
「また言った」
「えっ？」
「『草壁さん』じゃなくって『優季』って呼んでって言ったのに」
そして拗ねたように口を尖らせる。
「あっ」
そう言えば、恋人同士なんだから名前で呼び合おうって決めたんだっけ。
「ごめんごめん優季。いまだクセが抜けきらなくって」
「駄目ですよ。悪いクセは、ちゃんと直しておかないと」
満足そうに優季は言うと、俺に手を差し出してきた。
「それじゃあ行きましょう、貴明さん」
「ああ」
俺もその手をしっかりと握り返す。
優季の頬がほんのり上気する。
「行こうか、優季」
「はい！」
優季は幸せそうな笑顔を浮かべながら、大きく頷いた。
いつも歩く通学路。
でもいつもと違った日常。
でも、この日常がこれからは当たり前のようになる。
彼女のおかげで。
「どうかしたんですか？」
「えっ？」
いつのまにか、優季が俺の顔をじっと見つめていた。
「ああ、朝の風ってとっても気持ちいいなって思って」
俺はとっさに思い浮かんだ言葉を口にした。
「そうですよね。朝の風ってとっても気持ちいいですよね」
優季もにっこり頷く。
言えなかった。優季がとってもかわいいなんて、こんな往来では恥ずかしくって。
「そうだよなぁ……気持ちいいよなぁ……」
俺は空を見上げた。上空は、絵の具の水色をサーっと流したような、見事な青空が広がっていた。
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