「あっ！見て見て！！あれ！！」

　右手前方に見える建物を指差して、シェラは興奮を抑えきれずにハシャギだした。

「でっかい工場のようだけど……あれがどうかしたの？」

「あの工場って、安中駅のすぐ横にあるんだよ」

「えっ！？そ、それじゃあ……」

「うん！目的地が近いってこと」

「そうなんだ……ここまでの道のり、長かったわね」

　二人とも熱いものが胸に込み上げ、思わずジーンと来てしまう。

「ま、待ってくださいよー」

　その後方から、雰囲気をぶち壊すかのように情けない声が聞えてきた。

「ポーレル、遅いわよ」

「そうだよ。もうちょっと早く来てくれなくちゃ」

「そ、そんなこと言われてもー、二人分の荷物重くってー……」

「弱音を吐かない！」

「ボク達、それをもって安中榛名駅からきたんだから」

「だ、だからって、どうしてわたしがこんなことしなくちゃいけないんですかー！」

「恨むなら杠葉さんを恨むことね」

「そうそう。ぜーんぶ湖さんがいけないんだから」

「杠葉さん……恨んでやるんだからー……」

　ポーレルは重い重い足取りで後をついて行く。

　やがて――

　安中駅が見えてきた。

「うわー！！懐かしい！！」

　その光景に、思わずシェラは感嘆の声を漏らした。

「懐かしいって？」

「この安中バイパスだよ」

　そう言ってシェラは嬉しそうに微笑む。

「十年ぶり、くらいかなぁ？福島にいくとき東北自動車道使ってたんだけど、その途中にここよく通ったんだよ」

「へぇ。そうなんだ」

「懐かしいなぁ……あのころと少しもかわってないよ」

　シェラの頭の中に十年前の光景が浮かんできて、シンクロする。

　時間にして２時間２０分、距離およそ１０ｋｍ。

　その旅の終着を今、向かえようとしていた。

「とっても苦労でかなり時間の無駄だったけど、少しだけその苦労が報われた、かな？」

　シェラは微笑みながら、駅へとゆっくり向かうのであった。