「それでは、早速始めさせていただきます。立ちあがっていただけますか？」

「うん、わかった」

　シェラが立ち上がると、ルディは手かざした。目を瞑り念を送るような仕草を見せ始める。

　そしてその手が顔、頭、胸、足へと移動していった。

「……………………」

　シェラは黙ってその様子を見つめつづける。

　やがてその動作が終わると、両手を合わせた。

「すみませんが、一緒に拝んでもらえますか？」

「えっ？なんで？」

「すみません、お願いします」

　シェラは不服に思いながらもルディの言う通り両手を合わせる。

「これで、いいの？」

「はい。それでは次に、一緒に『ヤハト様ありがとうございます』と唱えてください」

　シェラは最早ここまで来たらやるしかないと思い、目を閉じた。

　そしてルディと一緒にその言葉を呟く。

「ヤハト様ありがとうございます。ヤハト様ありがとうございます。ヤハト様ありがとうございます」

　不思議とシェラの心がスッキリとした爽快な気分になっていった。

　マッサージを受けたあとのリラックスした気分とでもいうのだろうか。

　体中の力が抜けていく。

「終わりました」

　ルディの言葉を合図に、シェラは目を開けた。

「拝ませてくださって、ありがとうございます」

　ルディは満足そうな表情を浮かべて何処となくその場を去っていく。

　シェラは新興宗教にのめりこむ人達の気分が、少しだけわかったような気がした。

　催眠術の類だと思うが、気分がよくなってまた受けてみたいと思ったのも、また事実だった。

　しかしシェラはそれ以上に、新興宗教に勧誘されても加入しないという自信は揺るぎ無いものを持っていた。

　そして入れ違いにバスがやってきた。

「あっ、ちょうどいい暇つぶしになったかな？」

　シェラはバスに乗りこむと、目的地へ向かって出発したのだった。