数分前から降り出した雨は、瞬く間に豪雨となって地表へと降り注いでいた。

　時折空が眩しい光を放ち、轟音を唸らせながら稲妻をほとばしらせる。

「うわぁ……凄いなぁ……」

　４人がけＢＯＸシートに座っていたシェラは、突然豹変した空を興味深げに眺めていた。

　無理もない。一体誰が、こんな天候になると想像できただろうか？高崎を出た時には青空が広がっていたというのに、今の空模様は分厚い灰色の雲に覆い尽くされ、先程までの面影は見る影もなかった。

「店長さん……そんなに喜んでくれなくってもいいのに」

　シェラはクスッと笑った。

　『店長』というのは、もちろん名前ではない。ひょんなことから知り合ったシェラのネット友達で、みんなからこう呼ばれていたためシェラも親しみを込めてそう呼ぶようにしていたのだ。

　実は、シェラは明覚襲撃を事前に予告していたりする。

　そのためこの天気は、『歓迎の呪い』だとシェラは捕らえていた。

　しかし、今回はたまたま八高線に乗車しただけで、明覚で途中下車する予定は全くなかったのだ。

「うんうん。いつか必ず、途中下車して襲撃してあげないと」

　シェラは独り言を呟き、納得の表情を浮かべる。

　すると、突然列車が停止した。

「……あれ？」

　シェラは小首をかしげたが、すぐにその事を理解した。

　それは、大雨のために運転を様子見るということ以外、何者でもなかったのだ。

「絶対襲撃してあげるんだから」

　シェラは独りほくそえみながら、窓辺に映る滝のような雨をジッと眺めるのであった。