駅の前にある土産物店で団子を購入し、駅舎の中に入ったシェラは、電車に乗り込む前に駅弁を購入することにした。

　普通、あさまは長野〜上野区間を走行するので、流石に直江津まで来る、というつわものの姿は少ない。

　故にホームも人の影がまばらだ。

「さーて、どんな駅弁があるのかな♪」

　シェラは期待に胸を膨らませながら駅弁売り場へと向かった。

「いらっしゃいませー」

　駅弁売り場で駅弁売りをしているアニスティが、声を掛けてくる。

「どんな駅弁があるんですか？」

「そうですねぇ……この、かまめしなんかどうですか？とってもおいしいですよ」

　アニスティはこともあろうに、かまめしを薦めてきた。

「横川のかま飯よりもおいしいの？」

「はい。うちのかま飯は一番ですから」

「じゃあいらない」

　シェラはあっさりとその駅弁購入を拒否する。

　かま飯駅弁は峠のかま飯こそが一番だと信じて疑わないシェラにとって、アニスティの言葉は屈辱以外何者でもなかったのだ。

「おいしいのに……」

「ボク、いらないもん。この『謙信おこわ』って言うの、ちょうだい」

　そして代わりに、違う駅弁を注文した。

「はい。ありがとうございます」

　アニスティは手早くその駅弁を袋の中に入れる。

「ご一緒にポテトとジュースもいかがですか？今ならセット価格でお徳ですよ」

「アニス、それじゃあハンバーガーショップのお姉さんだよ」

「そ、そうですね。あはははは」

「はい、これ代金ね」

「はい、毎度ありがとうございます」

　シェラは代金を渡し駅弁を受け取ると、特急あさま１８号の中に乗り込んだ。

　まもなく、アナウンスが流され、発車ベルが鳴り響く。

　そして特急あさま１８号は静かに動き出した。

「さよなら……直江津……特急あさま……」

　シェラは流れ行く直江津の風景を目に焼き付けながら、最後のあさまの旅に想いを馳せるのだった。