まだ寒さが辺りを支配する２月某日。

　シェラは独り、長野駅の駅舎にたたずんでいた。

　彼女はこれから、見ず知らずの土地に行こうとしている。

　いや、正確に言えば通過はしたことがあるのだが、降りたことはないのだ。

「ううっ……なんでボクが……」

　シェラは大きくため気を吐いた。

　空気が冷たいため、吐き出された息はまるで湯気でも立ち上ったかのように、真っ白に染まって空中へと霧散していく。

「やっぱ責任上、ちゃんと行かなくっちゃいけないよね」

　シェラはもう一度大きく溜息を吐き出すと、電光掲示板を見上げた。

　『妙高』――それが彼女の乗る電車であった。

「おかしいなぁ……」

　シェラは首をかしげながら、しきりに疑問を呟いた。

　以前乗ったときは『快速信越リレー妙高号』と言う名前だったはずだ。

　ちょうど近くを駅員が通りかかったので、シェラは尋ねてみることにした。

「すみませーん」

「はい、なんでしょう？」

「『妙高』……って、快速ですよね？」

「いえ。普通列車です」

「普通列車……に、変わったんですか！？」

「はい、そうです」

　駅員の人は親切に答えてくれる。

「そうですか。どうもありがとうございました」

　シェラはぺこりと頭を下げた。

「ところで、ここってエイラさんの担当なの？実際はもっと若い人だったような気がするんだけど……？」

「……なんですって？」

　エイラのこめかみがピクピクと痙攣する。

「よーく聞こえなかったなぁ……シェラちゃん、もう一回言ってくれないかしら？」

「な、なんでもないです！それじゃあ！！」

　エイラが指をポキポキと鳴らすのを見るや、シェラは慌ててその場を退散した。