京王八王子方面のホームは、新宿方面のホームとはうってかわって、人の姿があまりなかった。

「どうしたのさエミル？こっちは逆方面だよ？」

「わかってるそんなこと」

「じゃあなんで？」

「急がば回れ、だ」

「はい？言ってる意味がわからないんだけど」

　首を傾げるシェラに、エミルは新宿方面のホームを指差す。

「いいか？このままあっちの電車に乗っても、絶対間に合わん。最悪、２時間くらい立ちっぱなしのおしくら饅頭状態だ。 だったら、大きな賭けになるが、八王子まで出ちゃって中央線に乗ったほうが、いつつくかわからん電車よりもまだ確率がある。 それともお前もあの脳みそ筋肉戦士と一緒におしくら饅頭の旅を楽しみたいって言うなら話は別だが」

「あっ……ロジャー……」

　エミルの指差す方角の先には、ロジャーがスポーツ新聞を片手に電車待ちをしている。

「ま、俺達のほうが遅くなるかもしれないけどな。だからこれは博打だ」

「うーん……うん、今回はエミルのいうこと信じてみることにするよ」

　シェラは小さく頷く。

　しかし……先に来た電車は、なんと新宿行きの急行であった。やや遅れて、京王八王子行きの準特急が入線する。

「…………」

「ほら、乗るぞ」

　エミルに促され、シェラは渋々電車に乗る。

（大丈夫かなぁ……）

　シェラは大きな不安を覚えながら、対面の急行を見た。

　やがて電車はゆっくりとしたスピードで動き出した。