「……き……ずき……」
「……ん？なんだ……？」
「おい、おきろよ柚木！」
「あっ、杉下か。おはよう……」
「おはようじゃないよ。もう授業終わったぞ？」
「あっ、なんだ……ふわぁ〜」
　俺は欠伸をしながら教室の中を見渡すと既にもぬけの殻状態になっていた。
「まったく……よくもまぁ、あんなに堂々と眠ることが出来るな」
「おうよ！怒られるのが怖くって眠れるかってんだい！！」
「ほう？だからあんなにニヤニヤしてたのか。なるほどなるほど」
　杉下の言葉に俺は一瞬、ドキリとしてしまう。
「で、なんの夢を見てたんだ？さぞかし楽しい夢だったんだろ？」
「別にそんなんじゃねーよ。夢なんて見てなかったよ」
「本当かぁ？」
「しつこいな。じゃあな」
「あっ」
　俺は鞄を取ると、そのまま教室を出ていった。「起こしてくれてサンキュー」という例も忘れずに。
　それにしても危なかった。
　なんせ俺の見ていた夢と言うのは、ズバリ今朝の出来事だったからだ。
　女子と同居している、しかもそれが悪魔だなんて言う噂が校内に広まれば、それこそたまったもんじゃない。
　はぁ〜……どうしたもんだか……
　いっそあのまま夢であって欲しかった。
　そうすれば所詮夢の中の出来事と言うことで片付けることができる。
　だが現実は違う。
　もうすぐ、夢のような現実世界の悪夢が待ちうけている。
　しかも砂糖菓子にシロップをかけたようなあまったるーい現実だからたまったもんじゃない。
　う〜……なんか帰りたくなくなってきた……
　しかし、家出したところで騒ぎが拡大することは目に見えている。
　なんとか封印する方法ないかな……
　これも何度か試みたことであったが、やはり失敗に終わっていた。そして決まってエイミーはあの手この手を使って俺に死の契約を結ばせようとしてきた。
　とにかくこのままじゃいけないな。
　俺は家につくとそれなりに警戒をしながら玄関のドアを開けた。
「ご主人様ぁ〜！！おかえりなさぁ〜い！！」
　フリフリエプロンドレスを着たメイド姿のエイミーが、まっすぐこちらに向かって突進してくる。
　バタン！
　俺は迷わずドアを閉めた。
　ゴン！！
　瞬間、何かが勢いよくドアにぶつかるものすごい音がする。
「迷わず成仏しろよ」
　俺はそれに向かって両手を静かにあわせた。
　ガチャリ
　静かにドアが開く。
　その向こうには大粒の涙を目にいっぱい浮かべて鼻を抑えているエイミーの姿があった。
「ぐすっ……ご主人様ひどいですぅ〜……」
「いやぁすまんすまん。身に危険を感じたもんで、本能的につい」
「ご主人様……エイミーのことが嫌いなんですね……」
「い、いや、決してそんなことは……まぁ、かなりあるけど……」
「うわぁ〜ん！！」
　エイミーは堰を切ったように泣き出してしまった。俺は慌ててこいつを中に入れてドアを閉める。
「悪い！誤るからこのとーり！泣き止んでくれ」
「御主人様のバカバカバカ〜！！」
　ぽかぽかぽか、と泣きながら叩いてくるエイミーを、俺は必死でなだめる。
　予想していた結果とはいえ……これじゃあだだっ子をアヤす子供だよ……
　俺は自分の無能さを、ひたすら呪うしかなかった。