ホカホカに炊けた白いご飯。
　あっさり味のあさりの味噌汁におしんこ。
　そして刻み焦がしネギがのった豆腐にジュウジュウと皮が音を立てて脂が染み出ている焼鮭……
「あ〜日本人に生まれてよかった｣
「ご主人様……オヤジくさ〜い｣
　俺の言葉にエイミーはわざとらしく嫌がる素振りを見せるが、その表情は笑っている。
　きっと「エイミーのおかげでこんなにおいしいご飯が食べられるんですよぉ｣とでもいいたいんだな。
　まぁ、その通りだから反論しないけどよ……
　実際、こいつが来てから結構助かってたりする。家事はしてくれるし料理もおいしい、おまけに優しくてよく気がつくときたもんだ。
　これで悪魔じゃなければ最高なんだけどな……
「どうしたんですかご主人様ぁ？」
「いや、なんでもない」
「変なご主人様」
　エイミーは箸を取ると「いただきます！」と手を合わせて、ご飯を食べ始める。
　その表情はとても幸せそうで、見ているだけでこっちの気分も幸せになってくる。
「ご、ご主人様？あ、あの、エイミーの顔に何かついてるんでしょうか？」
　じーっと見られているのが気になったのだろう。エイミーは箸を止めると恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。
「いやなに、あまりにも幸せそうな顔して食ってんなぁと思ってな。そんなに飯うまいのか？」
「はい！魔界にはこんなにオイシイ食べ物ありませんでした」
「ふーん……そうなのか」
「そういうご主人様こそ、ご飯おいしくないんですか？」
「え？なんで？」
「だってご主人様、さっきからエイミーの顔をじーっと眺めるだけで、お料理に箸をつけてくださらないんですもの。ひょっとしてエイミーのお料理、お口にあわないんですか？」
「うんにゃ。そんなことはないぞ」
「だったらなんで？」
「そうだな……あまりにもかわいいエイミーの表情に見惚（みと）れちゃって」
「ええええっ！！？そ、そんな、え、えっと！！」
「冗談だ。本当はほっぺについた飯粒をいつとるのか気になっただけだ」
「わ、わっ！！早く言ってくださいよぉ〜！！」
「……冗談だ」
　俺は黙って箸を取ると、そのまま茶碗に盛られたご飯を食べ始めた。
「う〜……ご主人様のイジワルぅ〜」
　エイミーはプクッと膨れてしまう。その表情がまたカワイイ。
　こりゃ何か仕返しがくるな。
　俺はそう思ったが別に気にしないことにした。
　こいつの仕返しは、大抵大したことではない。
　せいぜい背後から抱きついてくるといったことくらいが関の山だ。
　本人曰く「仕返し」だそうなのだが、しかしこれもいつもやってくることなので、本当に仕返しかどうかは疑わしい。
「あっ！！」
　突然エイミーが立ちあがった。そして俺の方に近づいてくる。
「なんだ？どうした？」
「ご主人様。そのままじっとしててください」
「なんで？」
「ほっぺたにご飯粒がついてます。だからエイミーが取ってあげます」
「はいはい。お好きなように」
　俺はそのまま茶碗と箸をテーブルの上に置いた。こいつの好きなようにさせないと、後で何されるかわからないからな。今日のように人の寝床に進入されたらたまったものじゃない。
「そのまま、じーっとしててくださいね」
「わかったわかった。早くとってくれ」
「それじゃあ……」
　チュッ
　それは一瞬の出来事であった。
　右頬に柔らかい感触。暖かい温もり。そして恥ずかしそうにしながら嬉しそうなエイミーの顔。
「おお、お前！！いきなり何をするんだ！！」
「えへへ。ご主人様にキスしちゃった♪」
「ば、バカ！！お前……あ〜〜っ！？ハメたな！！ご飯粒がついてたなんてうそだったんだろ！！」
「そんなコトないですよぉ〜。ちゃーんと、ご主人様のほっぺについてたご飯粒はとってあげました」
「う〜〜〜」
　やられた……
　俺は完敗を認めざるを得なかった。
　喜んでいいのやら悲しんでいいのやら……
　複雑な気分になる。
　一体いつまでこんな拷問のような禁欲生活続けなきゃいけないんだろ……
　考えただけで、頭が痛くなっていった。