「ご主人様ぁ。似合いますかぁ？」
　試着室のカーテンが開き、中からクリーム色のワンピースをまとったエイミーが姿をあらわした。
　ポカッ！
　俺は問答無用でそのエイミーの頭を小突く。
　エイミーは頭を抱えながら目に涙を浮かべた。
「ふみゅぅ、痛いですぅ〜！ご主人様ってばいきなり何をなさるんデスかぁ〜！」
「バ、バカ！ここじゃ『ご主人様』じゃなく『綾人』って呼べっていっただろうが」
「そ、そうでした。ごめんなさい……」
「はぁ……まったく、頼むぜ」
　俺は辺りを見まわしながら自然と小声になる。
　幸い、今のシーンは誰にも見られていなかったようだ。
　ここはとあるブティック。周りにはカップルやら女性客が多い。明らかに俺には場違いとも思えるような場所だ。
「あの、それで、綾人さん……」
「綾人でいいよ」
「で、でも、ご主人様を呼び捨てにすることなんでできないですぅ」
　ポカッ！
　俺は再びエイミーの頭を小突いた。
「ふええん。痛いですぅ〜」
「何度言ったらわかるんだ？今度言ったらもう帰るぞ」
「わ、わかりましたぁ。今度からは気をつけますぅ……」
　エイミーは頭をさすりながら上目遣いに俺を見る。
「あ、あの、それで、エイミー、どう見えますか？」
「どうって……変人には見えないな」
「そんなこと聞いてるんじゃないですぅ〜！エイミーが聞いてるのは……」
「カワイイよ」
「えっ？」
「とっても似合ってるって言ったんだ。恥ずかしいこと何回も言わせるな」
「ほ、本当ですかぁ？エイミー嬉いですぅ」
　エイミーの頬が見る見るうちに紅潮していく。そしてグー形にした両手を口元に当ててきゃんきゃんと、毎度お馴染みのぶりっ子ポーズだ。
「それじゃあ、今度はこのチャイナドレスを着てみますねぇ」
　エイミーは嬉しそうに言うと、再び試着室のカーテンを閉める。
　はぁ、勘弁してくれよ……
　エイミーの試着会が始まってから早２時間が経とうとしている。いい加減俺は帰りたくなってきたのだが、エイミーはまだまだこの買い物を続けたいようであった。
　あんな無茶な約束しなきゃよかったな……
　目を閉じれば昨夜の悪夢がまじまじと蘇ってくる。
　その約束のおかげで現在こうして拘束されるハメになってしまったのだ。
　早くこの地獄から解放されないかな……
　俺はただただ、自分の愚かさを呪うしかなかった。
　全ては昨夜エイミーと勝負したトランプゲームのポーカーに端を発していた。