漆黒に包まれた空間。
　微かに蝋燭の炎だけが辺りを照らし出す。
　高鳴る鼓動。
　荒れる息遣い。
「……ご主人様なんてキライ……」
　エイミーがぼそっと呟いた。
　暗く沈んだ表情。
　その瞳はとても悲しげで、今にも泣き出しそうだ。
「もっとエイミーに優しくしてくれるって言ったのにぃ……」
「そう言われても、なぁ……」
　俺も返答に困ってしまう。
　別に酷いことをしたつもりはなかったんだが、エイミーは相当傷ついたようだ。
「エイミーご主人様を信じてたんですよぉ？それなのにぃ……こんなことするなんて……グスッ……」
「仕方ないだろ？こうするしかなかったんだから」
「……ご主人様はぁ、エイミーのことキライなんですかぁ？」
「キライじゃないさ……」
「じゃあ……」
「でも、それとこれとは別」
「だ、だめですぅ！！そんなことされたらエイミー……！！」
「ダメって言われてやめるやつはいない」
「ああんっ！！そ、そこは！！イヤぁっ！！」
　俺は懇願するエイミーをあざ笑うかのように駒を１つ、進めた。
「チェックメイト。はい、終了」
「うわぁ〜〜〜ん！！ご主人様ヒドイですぅ！！」
　キングの逃げ場がなくなったエイミーはとうとう泣き出してしまった。
　これで１０戦１０勝。
　エイミーはトランプも弱いがチェスも弱いということがイヤというほどわかった瞬間でもあった。
　こんな真っ暗な暗闇の中で蝋燭の灯かりを頼りにチェスをやるというのもアレなんだけどな。
　おそらく端から見れば怪しげな儀式を行っているようにしか見えなかっただろう。
　というか、それ以外にどう見えると言うんだ？
　ま、しかたないか。
　今は停電中だから電気が使えないからな。
　原因はというと、季節外れの超大型台風が直撃したことにあった。
　さっきラジオで確認した情報によると、なんでも送電線が根こそぎやられて復旧まで最低１週間はかかると言う。
　なんだかなぁ……という感じもするのだが、この分だと学校もしばらく休校になりそうだからよしとしなければいけないかな？
　それにしても……
　退屈だ。
　電気が使えない生活というのがこのようにも不便なものだとは思ってもみなかった。
　退屈凌ぎに、とチェスを持ち出したまではよかったが、エイミーじゃ全然相手にならないし……
　今日はもう寝よっかな……
　俺はそんなことを考えながらエイミーを見た。
　泣き虫エイミーをこのままほっといていいもんだか……
　迷った挙句、俺はエイミーをそのままにして自分の部屋へと戻っていった。
　ま、いつものことだしな。