「ご主人様ぁ〜……退屈ですぅ……」
「……………………」
「ねぇ、ご主人様ってばぁ……」
　エイミーの声が聞えるような気がする。
　それもものすごく近くから。
　何故だ？
　それはきっと夢だから？
　それとも……
　俺はそれ以上考えるのをやめた。
　もしそうだとしたら……あまりにも残酷な現実が待っている。
　俺はあの後自分の部屋に戻って眠りについた。
　それは確実にいえることだ。
　そして背中からエイミーの声が聞えてくる。
　おまけに人の気配まで感じる。
　はぁ……
　なんだか悲しくなってきた。
　ひとつのベッドに女の子と二人きりで眠っている。
　普通ならばものすごくおいしいシチュエーションなんだろうな、きっと。
「ご主人様ぁ……」
　エイミーの甘い吐息が首筋にかかる。
「な、なあエイミー……」
「あっ！！やっと起きてくださったんですかぁ？ご主人様ぁ！！」
　俺の返事を聞いた途端、エイミーは嬉しそうに体を寄せてきた。
　背中に柔らかいふくらみの感触が２つ。
　もうほとんど生き地獄だ。
「ひとつ……聞いてもいいか？」
「はい！！なんでしょう？」
「なんで……おまえ、俺の布団の中にいるんだ？」
「だって……ご主人様の布団の中って暖かいんだもん……」
「出てけ」
　俺は即答でそう言ってやった。
　途端にエイミーが非難めいた不満の声をあげる。
「イヤですぅ！！エイミー、ご主人様とず〜っといっしょだもんっ！！」
「却下」
「え〜ん！！ご主人様ヒドイですぅ！！」
　またいつものエイミーの駄々コネが始まった。
　しかし今回ばかりは流石に下手なことはできない。
　後ろを振り向いた瞬間理性を失いかねないからな。
「……わかりました。それじゃあ、シリトリしましょ」
　突然、エイミーは妙な提案をしてきた。
「ご主人様がエイミーに勝ったらぁ、おとなしく出ていきますぅ」
　エイミーは嬉しそうにそんなことを言う。
　もちろん、俺が勝ったからといって自分の部屋へと戻っていくようなやつではない。
　ただたんに暇つぶしがしたいだけなのだろう。
「……ああ、いいぜ」
　俺はこのまま無視するわけにはいかないので、とりあえずエイミーの相手をすることにした。
「わぁ！！ご主人様大好きですぅ！！」
　エイミーはさらに体を密着させてくる。
　もう俺の理性はズタズタ状態だ。
「それじゃあエイミーから始めますねぇ。えーっとぉ……シジミ」
「みかん」
「……………………」
「……………………」
「……ご主人様のバカぁ〜！！」
　エイミーは泣き出してしまった。
「いいもんいいもん！！ご主人様なんてキライなんだからぁ！！」
　エイミーはそれっきり口をつぐんでしまう。
　流石に悪い事をしたかな？
　俺も雀の涙ほどの後悔の念にかられて、エイミーに声をかけた。
「なぁ、エイミー」
「……………………」
　エイミーは黙ったままだ。
　こりゃ相当怒ってるな……
「エイミー、悪かったよ……」
「……………………」
　やはりエイミーは黙ったままだ。
　うーん……どうしたらいいものか……
「ご主人様ぁ……」
　そう考えてるとエイミーが話しかけてきた。
「なんだ？」
「……大好きですぅ……」
　そう呟くとともに、小さな寝息がスヤスヤと聞えてくる。
「……寝言かよ」
　俺は苦笑しながらそう呟いた。
　いつのまにかエイミーは眠ってしまっていたようだ。
　俺はそっとベッドを抜け出すと、エイミーに布団を掛けなおしてソファで眠ることにした。
　今日は厄日だ、と思いながら……