「……………………」
　深夜、俺は目を覚ました。
　なにかが近づいてくる気配が感じられる。
　よく耳を澄ませてみると、確かにヒタヒタヒタと誰かがこの部屋を目指してやってくる足音が聞こえる。
　こんな夜中にくるやつと言えばやっぱり……
　俺はそのまま布団をかぶり、寝たフリをして様子を窺うことにした。
　部屋のドアが静かに開かれ、誰かが入ってくる。
　どうやら相手は俺が熟睡しているようだと思いこんで、かなり油断しているようだ。
　そいつは用心深く俺の前までやってきた。
　そして少し荒い呼吸を落ちつかせるかのように二度、三度深呼吸をすると、かけ布団をめくった。
「わっ！！」
　同時に俺は大声をあげる。
「きゃぁぁぁぁっ！！？」
　そいつは間抜けな悲鳴をあげながらトスンと尻餅をついた。
　俺はベッドから抜け出すと電気をつける。
　室内が明るくなり、珍入者の姿を照らしだした。
「……何やってるんだよエイミー？そんな変な格好して」
「ちちち、違いますぅ！エイミーはそんな名前じゃなくってぇ、夢幻怪盗マジカル☆エイミーですぅ！！」
　俺がそう言うと、エイミーは姿を隠すかのように、必死で身を丸くした。
「自分でエイミーっていってるじゃないか。まったく……タキシードなんか着こんで男装してるかと思ったら、こんな変な仮面までつけやがって……」
　俺は問答無用でその仮装パーティー用の赤い仮面を外す。
「一体何時だと思ってるんだ？怒るぞ？」
「ご、ごめんなさいご主人様ぁ！！」
　観念したエイミーはガバッと俺のほうを振り向くと、土下座して額をカーペットにこすりつけながら謝りはじめた。
「はぁ……で、どーしてこんなことをしたんだ？」
「え、えっとぉ……話せば長くなるんですけどぉ……」
「短く話せ」
「うぐぅ……ご主人様のイジワルぅ〜」
　エイミーの瞳に大粒の涙がたまる。
「エイミー、怪盗黒薔薇に憧れて真似してみたくなったんですぅ」
「それでそんな変な格好してるわけか？それで、何を盗むつもりだったんだ？」
「え、えっとぉ……怒らないで聞いてくれますかぁ？」
「おう。俺は心が広いからな」
　俺がそう言うと、エイミーは上目遣いで俺を見た。
　心なしか頬が赤い。
　……やっぱり……
　俺はあまりにも予想通りの展開にため息をつきたい気分にかられた。
「そ、その……ご主人様のハートを……」
「…………ふぅ」
「あー！！酷いですぅ！！エイミーちゃんと言ったのにためいきつくなんてぇ！！」
　エイミーは非難の声をあげた。
「怒らないとは言ったが呆れないとは言ってない」
「うぅ〜……」
　エイミーは恨めしそうに俺をみる。
「まったく……くだらないこと考えるんじゃない。おかげで貴重な睡眠時間が奪われたんだぞ？」
「だ、だってぇ……」
「だってじゃない。大体、あの書置きといい、やることが中途半端過ぎるんだ」
「あ、あれは……ご主人様がエイミーと会えないことで、せつない気持ちを増幅させようと思ったんですぅ」
「だったら料理は無い方がよかったな」
「そ、そんなこと出来ません！！ご主人様を飢え死にさせるなんて、エイミーにはできないですぅ！！」
　エイミーは当然といわんばかりに俺をみる。
　……たかが一食抜いたくらいで餓死なんかしないっつーの。
「あのぉ、ご主人様ぁ……」
「なんだ？」
「ひょっとしてぇ……お料理は作っておかないほうがよかったんですかぁ？」
「そうだな。その方がエイミーへの気持ちもより募っていったかもしれないぞ？」
　俺はそう答えた。
　エイミーは恥ずかしそうに笑っている。
「えへへ……そうなんだぁ。じゃあ次の時はそうすればぁ……」
「でも、本当にそんなこと実行すれば、間違いなくエイミーを嫌いになっちゃうかもしれないけど」
「えええっ！？そ、それはダメですぅ！！エイミー二度とこんなことしないですぅ！！だからエイミーのことキライにならないでくださいご主人様ぁ！！」
　そしてエイミーは泣き出してしまったのだった。