「晶君、ちょっといいですか？」
「ん？なんだ？」
「じゃーん。これ作ってきました。もしよろしければ食べてくださいね」
　わたしは持っていた包みを晶君の机の上に置きました。
　４限目の授業も終わり、これからはお昼の時間です。
　昨日とってきたふきのとうを、晶君にも食べてほしくてお弁当を作ってきてみました。お母さんほどではないけれど、一生懸命作ったつもりです。晶君のお口に合えばいいのですが。
「お？なんだなんだ？」
「ふきのとうのフルコース……ね」
　その様子を見たはっちゃんとわかちゃんがやってきました。はっちゃんは本名を初風美優（はつかぜみゆう）、同じくわかちゃんは本名を若菜希（わかなのぞみ）といって、わたしの大切なお友達です。
「はっちゃんもわかちゃんも食べてくださいね。たっくさんありますから」
「蜜柑がそういうなら遠慮無く頂くとするか」
「遠慮したら悪いものね」
　二人に割り箸を渡すと、おいしそうに食べ始めます。今回のお料理はどれも自信作です。
「うーん！さっすが蜜柑！！おいしいぜ」
「ホント、蜜柑には負けるわ」
「そ、そんなことないですよ」
　二人があまりにもおいしそうに食べるものだから、なんだかわたしも嬉しくなりました。でも、晶君は箸をつけてくれようとしません。やはりこのようなお料理はお口にあわなかったのでしょうか。
「ほーんと、蜜柑の手料理が毎日食えるやつは羨ましいよな」
「同感ね。しっかり食べなさいよこの色男」
「な、なんだよその色男ってのは！！」
「ああ、まったくだ。蜜柑を泣かせるような真似をしたらただじゃすまないからな」
「一生呪うわよ」
「あ、あの……」
　どうしましょう。いつのまにか論点がわたしのお料理から晶君に変わっています。わたしと晶君はそんな関係じゃないのに……
　なんだかこういう雰囲気は苦手です。
　そんなわたしの気持ちを察してか晶君は割り箸を手に取ると、ふきのとうの炊きこみご飯を口に運びました。
「あ、あの、どうでしょう？」
　一瞬、静かな時間が流れます。なんだかドキドキします。
「……うん、うまいぜ」
「ほ、本当ですか？よかった」
　わたしはホッと胸をなでおろしました。
「たっくさんありますからどんどん食べてくださいね」
「ああ、遠慮無く貰うぜ」
「お前、少しは遠慮しろよな」
「そうそう、あなたに蜜柑の手料理は分不相応だわ」
「なんだと！！」
　一気に楽しく和気藹々とした和やかな雰囲気に包まれます。
　作ってきてよかった。
　わたしはそう思いました。晶君にも喜んでもらえましたし。
　部活の時間に木幡先生にもご馳走してあげよっと。