「うあわぁ……キレイ……」
　わたしはその美しい光景に思わず見とれてしまいました。
　春の微風に乗った桜の花びらが、軽やかなダンスを踊りながら公園の中をかけぬけていきます。
　公園の中は、既に沢山のお花見客でにぎやかになっていました。
「沢山人がいますね」
「ああ。しっかしこれだけ人が多いとあいつら見つけにくいな」
　わたしと晶君がそう話し合っていると、どこからともなくわたし達を呼ぶ声が聞えました。
「おーい蜜柑、こっちこっち」
　その声のする方向を向くとはっちゃんが手をふっていました。
　隣りにはわかちゃんが座ってなにかを飲んでいます。
「意外と早く見つかったな」
「はい、そうですね」
　わたしと晶君はその場所へと行きました。桜の眺めもよく、とっても素敵な場所です。
「随分と遅かったな。まさかお前、蜜柑になにか変なことしてたんじゃねーだろうな！？」
「わかってると思うけど、蜜柑になにかあったら命はないと思ったほうがいいわよ」
　はっちゃんとわかちゃんは怖い視線で晶君を睨んでいます。
　なんだか気まずい雰囲気です。
「あわわわわ。はっちゃんもわかちゃんも、晶君をあまりイジメないでください。ちょっと荷物を持つのを手伝ってもらったんですから」
　わたしは慌てて止めに入りました。
「そうなのか？」
「何もされなかった？」
「はい。ちょっとお料理作りすぎちゃって。晶君のおかげで随分助かりました」
「そうなのか？それならいいんだけどよ」
「蜜柑は私達の大切な友達なんだから、変質者に襲われないように気をつけないとね」
　はっちゃんもわかちゃんはわたしの言葉に納得したようにシートの上に腰掛けました。
　一方の晶君は、かなり不満がある様子です。
「そういえばわかちゃん、先ほど何を飲んでいらしたのですか？」
　わたしはふと、わかちゃんの横に置かれている水筒が気になったので尋ねてみました。
「これ？これは緑茶よ」
「緑茶ですか？」
「そう。団子には緑茶がつきものだから」
　わかちゃんはそう言って、手元にあったお重の蓋をあけました。なかには蜂蜜色の甘そうなタレがたっぷりとかかった串団子がぎっしりと詰まっています。
「おいしそう……これ、わかちゃんの手作りですか？」
「そうよ。蜜柑には負けるけどね」
「そんなことないですよ。わかちゃんのお料理の方が上手ですから」
　わかちゃんに褒められ、なんだかわたしは恥ずかしくなってしまいました。
　人から褒められるって言うのは、やっぱり気持ちのいいことです。
「それよりも腹減ったから、早速食べようぜ」
「そうですわね。さ、さっさとあけちゃってください」
　はっちゃんとわかちゃんは、晶君に指示を出します。
　晶君は不満そうにしながらもお重の包みを解いてシートの上に並べ、蓋を取ります。
　中にはハンバーグや卵焼きなど、いろいろなお料理をぎっしりと詰めこんでおきました。
「これだけじゃないですよ。サンドイッチもありますから、遠慮しないでどんどん食べてくださいね」
　わたしは持っていたバスケットの蓋をあけました。
　楽しい宴会は、始まったばかりです。