若葉薫る季節となりました。さわやかな気候がふんわりと夢の世界へ誘います。
　こんにちわ。水無川蜜柑です。
　桜の季節も過ぎ去り、もうすぐ夏がやってきます。
　ぽかぽか陽気に包まれながら受ける授業は、まるで先生の子守唄を聞いているようでなんだか眠くなってしまいます。ちょっと困りものですね。
　今日も授業が終わって、いつも通り新聞部の部室へとやってきました。
　顧問１人、部員１人の小さな部ですが、やりがいがあってなかなか楽しいです。
　きっとみなさんにも新聞部の良さがわかってもらえる日が来るはずです。
「さて、と……」
　わたしは荷物を机の上に置くと、鞄の中から筆記用具と原稿用紙をとりだしました。前の新聞を発行してからそろそろ１ヶ月が経とうとしています。
　またなにか発行しないといけないのですが、なかなかいいネタがありません。
　みなさんが読んで心が和むような面白い話とか、どこかにあればいいのですが。
「うーん……書くことがありません……」
　わたしは白紙の原稿用紙と睨めっこしながら、なにかいいものはないかとあれこれ考えました。
　ここ数日間こんな状態が続いていますが、未だにそれ以上進むことができません。　わたし１人しかいない、そう思うと余計肩に力が入って緊張してしまいます。
　新聞部の存亡にも関わりますから責任感は重大です。
「困ってしまいました……どうしましょう……」
　わたしははぁ〜と大きくため息をついて、鉛筆を机の上に置きました。
　それと同時にガラガラと戸の開く音がして、顧問の木幡先生が部室の中に入ってきました。
「あっ、木幡先生、こんにちわ」
「よぅ。やってるな」
　木幡先生はぼさぼさの頭をポリポリとかきながら胸ポケットから煙草を取り出します。
「木幡先生、ここは禁煙ですよ」
　わたしはその動作を見ると、いつものように木幡先生に注意をしました。
「おお、そうだったな。すまんすまん」
　木幡先生は慌てて煙草の箱を再び胸ポケットへとしまいます。
「この場所にくるとつい学校にいること忘れちまってな。ま、それだけ居心地がいいってことなんだが」
「そんなこと言って。校長先生に聞かれても知りませんよ」
「なぁに、あのタコハゲが怖くって物理の教師が務まるかってーの」
　木幡先生はハッハッハと笑いながら近くにあった椅子に腰掛けました。
「クスッ。先生も相変わらずですね」
　わたしもそんな先生の姿を見て、思わず笑ってしまいます。
　木幡悠（こはたゆう）先生は物理担当の教師で、この新聞部の顧問も務めてらっしゃいます。
　学校にいる時はいつも白衣を着ていて、眠そうな目をしながらぼさぼさの頭をしているため変わり者として、校長先生や教頭先生、それに生徒の保護者の人達からはあまり評判はよくありませんが、生徒の人達からは面白くて頼れる先生として人気があります。
　そんな先生に顧問についていただけるなんて、なんてわたしは幸せ者なんでしょう。
「あー、しっかし、昨日はひどい目にあったな」
　木幡先生は大きく欠伸をすると眠そうな目を１、２度擦りました。
　この部屋は日当たりがよく風通しもいいため、お昼寝するのには最適な部屋です。
　先生なら授業中でも平気で大きな口をあけて欠伸をしますが、今の欠伸はそれだけが理由ではありません。
　実は木幡先生は昨日、とても辛い体験をなさったのです。