「あっ、そうだ先生」
　わたしは鉛筆を置くと、木幡先生を見ました。
「ん？なんだ？」
「昨日のこと、記事にしてもいいですか？」
「昨日のことって……ひょっとして……」
「はい。先生の駐車違反のことです」
「駄目！絶対駄目！！大却下！！」
　先生は即座にわたしの提案を否定しました。
「そうですか？結構面白いとおもうんですけど……ご自分のご自宅で駐車違反になるなんて、滅多にないことですし」
「勘弁してくれよ。おかげでこっちはひどい目にあったんだから」
　木幡先生は疲れきった表情で答えます。
　もう思い出したくもないといった感じです。
　このままでは先生にご迷惑をおかけしてしまいます。
　わたしは話題を変えることにしました。
「そうだ。先生って、奥さんととっても仲がいいんですね」
「そうか？まぁ、あいつもあんなに怒りっぽくなきゃ最高の嫁さんなんだが」
　木幡先生ははぁっと深いため息をつきました。
　まずいです。どんどん落ち込んでいくような気がします。これでは逆効果です。
「げ、元気だしてくださいよ、先生。そのうちきっといいことがありますよ」
「そうか？まぁ、そうだな。水無川はきっといい嫁さんになれるぞ」
「そ、そんな先生。いいお嫁さんだなんて……」
　思ってもみない言葉が返ってきて、わたしは顔を赤らめてしまいました。
　もし、わたしと晶君がそうなったら……
　ヤダッ！わたしったらなんてはしたないことを考えているんでしょう。
　わたしと晶君とじゃ、釣り合いが取れるわけないのに。
「ほーう？教え子にセクハラ働くとはいい度胸じゃねーか。え？このエロ教師さんよ」
「私達の蜜柑に手を出すなんて、万死に値するわね」
「えっ！？」
　その言葉に振りかえると、夕陽を背にはっちゃんとわかちゃんが直立不動の姿勢で私達を見ていました。
「いくら夫婦仲がうまくいってねーからって、教え子に手ぇだすたぁ、感心しねーな」
「おまけに駐車違反するなんて……教育者として失格ね」
「なっ！？お、お前達、どこでそれを！？」
　何か良からぬことを企んでいるような笑みを浮かべて、はっちゃんとわかちゃんは部屋に入ってきました。一方の木幡先生は驚いた表情を浮かべています。
「ど、どこでって……自分でいってたじゃねーか」
「大事な話をする時は、ちゃんととを閉めてすることね。廊下まで丸ぎこえだったわよ」
「し、しまったぁぁぁ！！」
　木幡先生はまさに「一生の不覚！」といわんばかりの表情を見せました。
「はっちゃんもわかちゃんも、先生をいじめないでください！先生と桜さんって、とっても仲がいいんですよ。だって桜さん、先生のこと……」
「ストーップ！！それ以上言うんじゃない！！」
　わたしの言葉を、木幡先生は慌てて制止しました。
「で、お前立ちの望みはなんだ？」
「流石大センセイ。話がはえーじゃねえか。とりあえず、あたしはステーキ」
「苺パフェも忘れないでね」
「とほほ……今月はただでさえ苦しいのに……」
　木幡先生ははっちゃんとわかちゃんの言葉を聞いて、ガックリと肩を落としました。
　木幡先生の受難は、まだまだ続きそうです。