オレンジ色に染まった大空の海をカラスの群れが泳いでいきます。公園の遊び場では母親に手を握られた子供達が名残惜しそうにその場所を見つめていたり晩御飯のお話をしていたりして、なんだか微笑ましい光景です。
　こんにちわ。水無川蜜柑です。
　今日は図書館で色々調べ物をしていたので帰りがいつもよりも少し遅くなってしまいました。
　今日も何事もなかったのでちょっと残念でしたが、それでも楽しく有意義な一日でした。……って、こんなことを言うとまるで私がなにか騒動が起こることを期待しているように見えますね。
　平和であるというのは素晴らしいことです。そんな今の現状に文句を言うとバチがあたってしまいます。世の中には私よりも恵まれない境遇の子供達が沢山いるのですから。
　反省しなくっちゃ。てへっ。
　私はいつも晶君がつくる仕方ないなといった表情を思い浮かべながら家路を急ぎました。
　もし私が今の言葉を晶君に言ったら、きっとこう言うでしょう。
「どうしてお前はそう、くだらないことしか考えられないんだ？」って。
　私にとっては重要なことなのですが晶君から見ればつまらないことなのでしょう。
　私にとっては少し残念なことですが、それも晶君のステキなところのひとつです。
　あれ……あれは……？
　ふと私は、前方に少数の人だかりができているのを発見して歩を止めました。
　ご近所の弘佐（ひろさ）さんのお宅です。
「あの、どうかなさったんですか？」
　私はその輪の中にいた一人の人に尋ねてみました。
「どうもこうもないよ。なんでも、雷斗（らいと）ちゃんが書置きを残して家出しちゃったんだって」
「えええっ！？」
　私はそれを聞いてビックリして腰が抜けそうになってしまいました。
　どどどどど、どうしましょう！
　先ほど思ってたことが現実になってしまいました。
　雷斗ちゃんと言うのは私の斜め向かいに住んでいる穂麦（ほむぎ）さん家の一人息子で、悪戯好きな小学校三年生の男の子です。
　最近も色々と悪さをしていたようですが、まさか家出をするなんて……
　お母さんに怒られて思いつめてしまったのでしょうか？
　あれ？……でも、雷斗ちゃんが家出をしたのなら、どうして弘佐さんのお宅の前にみなさんおられるのでしょう？警察の人もいるようですし……
「あの、それならどうしてこんなところにいるのですか？穂麦さんのお宅はもっと先ですけど……」
「それなんだけど」
　ここで、その人は急によそよそしくあたりを見まわすとヒソヒソ声になりました。
「なんでも、弘佐さんのお宅の庭にあるプレハブ小屋からその書置きが発見されたそうよ」
「えええっ！？本当ですかそれ！？」
「しっ！！声が大きいわよ！！」
「ご、ごめんなさい……」
「ほら、事情が事情でしょ？だから誘拐事件の可能性もあるって警察の方がいるわけ」
「そ、そうですか。それで雷斗ちゃんは見つかったんですか？」
「それがまだらしいのよ。だから私達も手分けして探そうかって話し合ってたところなのよ」
「そうだったんですか。ありがとうございました」
　私はその人にペコリと頭を下げてその場所を後にしました。
　帰り際にチラッと見えた弘佐さんの奥さんの表情が、まるで得も言われぬ冤罪を受けているといった、とても困惑したものになっていました。