昨日、ニュースの天気予報で梅雨入りしたことが発表されました。梅雨って雨が降ったりやんだりと不規則な天気が続いて、暑くジメジメしていてなんだかイヤですよね。
　こんにちわ。水無川蜜柑です。
　突然ですが、私は『今日』と言う日ほど後悔したことはありません。
　珍しく私は寝坊してしまい、朝ご飯も食べずに家を飛び出してなんとか学校に遅刻せずにすみました。
　でも、その代償はあまりにも高くついてしまったのです。
　朝家を出る時はすみきっていた青空が広がっていたのですが、今は厚い灰色の雲に覆われた、お日様が顔を覗かせることなく雨が降っています。カエルさん達はそれを歓迎するかのように賛美歌を合唱しています。
　迂闊でした……天気予報で梅雨入りしたことを知っていたのですから、折り畳み傘だけでも鞄に入れておけばよかったです。
　はぁ……どうしましょう……
　私は昇降口で降りしきる雨を見つめながら呆然と立ち尽くしていました。
　雨は一向にやみそうにもありません。
　私ってなんて準備が悪いんでしょう……
　今更自分の鈍感さを呪ってみたところでどうなるものでもありません。
　仕方ないですけど、濡れて帰るしかありませんね。
　私は決意を固めグッと拳を握り締めました。
「よう、こんなところで何をしているんだ？」
　と、背後から誰かに声をかけられました。
　とてもよく知っている声です。
　優しく、暖かく、安らぎのある声……間違いありません。晶君の声です。
「はい、雨を眺めていました」
　私は空を見上げながら答えました。
「相変わらず変な奴だな」
　晶君は苦笑しています。
「で、どうせお前のことだから傘を忘れてこの雨の中を走って帰ろうとでも考えていたんだろ？」
「す、凄いです！どうしてわかったんですか？」
「お前の考えって単純だからな」
　驚く私に、晶君はさらりと言ってのけると傘を広げました。
「ほらよ」
「え？」
「いれてやるよ。梅雨の時期に傘を忘れるようなお間抜けさんをよ」
「ええええっ！？」
　突然の申し出に、私は心臓がドキドキしています。
「そ、そんな！！私の不注意でこのような事体を招いてしまったのに、晶君にご迷惑をおかけするわけにはいきません！！」
「気にするなよ。お前に風邪をひかれちゃ困るからな」
「えっ！？そ、それって……」
「ああ。お前を起こすのが俺の日課だから」
「……えっ？」
　その言葉に私はキョトンとしてしまいました。予想もしていなかったことを晶君が言うものだから、心臓のドキドキは一気に納まってしまいます。
「ひ、ひどいです晶君！それを言うなら、私が晶君を起こしてるんじゃないですか」
　私は少し間を置いてその言葉に反論を唱えました。
　実際、ここ数日晶君を起こしているのは私だったりします。
　それを晶君が私を起こしているだなんて、あんまりです。
「もうそんなこと言うと、起こしてあげませんよ？」
　私がムスッとしながらそう言うと、晶君は笑い出してしまいました。
「いやぁ、お前って、本当にからかい甲斐のある奴だな。一緒にいて楽しいよ」
「えっ！？そ、そんな、楽しいだなんて……」
　私はその一言に思考回路がパニック状態に陥ってしまいました。
　晶君が私と一緒にいて楽しいだなんて……お父さん、お母さん、私はとっても幸せものです。
　そんな私に晶君は何故か苦笑していました。
「ほら、置いてくぞ？」
　恥ずかしそうに視線をそらしながら、私に傘に入るように促します。
「あ、あの、それでは、お世話になります」
　私は深々とお辞儀をして晶君の傍にいきました。
　晶君と一緒にこの雨道の中を歩く……
　そう考えると憂鬱な気分も一気に吹き飛んでしまいます。
「この次からはちゃんと傘を忘れるんじゃないぞ？」
「はい。でも、今日は……」
「今日は？」
「いえ、なんでもありません」
　歩きながら、私は言葉を続ける変わりにニッコリと微笑みました。
「なんだよ。変な奴だな……」
　晶君は怪訝そうな表情で私のことを見ます。
　今日は、傘を忘れて良かったと思います。
　私は心の中で小さく呟きました。
　雨は一向にやむ気配がありません。