街の樹々はすっかりと紅く色づき、遊歩道は銀杏の葉で黄色に装飾されています。
　秋の香りが漂う街中を歩いて入ると、なんだか故郷のことを思い出してしまい、ちょっぴりセンチメンタルな気分になってしまいます。
　こんにちわ。水無川蜜柑です。
　秋と言えば読書の秋、食欲の秋、芸術の秋、それにスポーツの秋です。
　スポーツと言えば、今度とあるプロサッカー選手が桜ヶ丘市に来ることになったんです。
　えへへ。凄いでしょ？
　やっぱり記者としては取材しないわけにはいきませんよね。
　ですから、来ちゃいました。
　学校休んで。
　ホントはいけないことなんですけどね。
　これもスクープのためです。
　背に腹は変えられません。
　はっちゃん、わかちゃん、後は頼みましたよ。
　そのサッカー選手は市が行う桜ヶ丘タワー落成式典のゲストとしてくることになっているので、こうするしかなかったんです。
　もうすぐ１０時です。早くしないとイベントが始まってしまいます。
　うー……こんなことなら昨日のうちに用意しておけばよかったです。
　わたしって、なんて用意が悪いんでしょう。
　制服で来てしまったことも、ちょっとまずかったでしょうか？
　大丈夫ですよね。
　なせばなるっていいますし。
　ああ、急がないと。
　あれ？
　あの交差点でキョロキョロしている人……
　あの人が着てる制服って、確か隣の八玉子市にある私立聖フェリス女学院中等部の物だったような気が……
　一体こんなところで何をしているんでしょう？
　ひょっとして、あの人も記念式典目当てに学校休んできた人でしょうか？
　なんだか気になります。
　声をかけてみることにしましょう。
「あ、あの」
「なに？あ、丁度よかった。アンタこの辺の人？」
「はい、そうですけど……ひょっとしてあなたも今日の式典目当てで」
「……っていうことは……アンタもそうなの？」
「ええ。よろしかったらご一緒に行きませんか？」
「ホント？じゃあ、お言葉に甘えさせていただくわ」
　なんだか元気な女の子です。
　気が強そうで、ちょっと意地っ張りのような。
　でも、とっても気が優しい女の子のような気がします。
　とりあえず、遅れてしまうとまずいので急いで行くことにしましょう。
「でも、お互い制服で行くなんて……なんだか変ですね」
「仕方ないわよ。このイベントにいくって決まったらアイツやお姉ちゃんに絶対反対されるもん」
「アイツ？ひょっとして、お友達の方ですか？」
「友達っていうより……お兄ちゃん……みたいな存在、かな？友達には言ってあるんだけどね。このイベント行くから、うまく誤魔化しといてって」
「わたしもです。やっぱり、持つべきものは友、ですよね」
「そうそう！なんだかあたし達って気があうわね」
「そうですね。うふふふふ」
　会話が弾んでとても楽しいです。
　まるで妹ができたみたい。
「そうそう、自己紹介が遅れました。わたし水無川蜜柑と申します」
「蜜柑、かぁ。ステキな名前ね。あたしはミーシャ」
「ミーシャさんですか。とってもかわいらしい名前ですよ」
「ホ、ホント！？ホントにそう思う！？」
「はい。名は体を表すって言いますけど、とってもカワイイですよ」
「そ、そうよね！！ああ、今の言葉録音してあいつに聞かせてやりたいくらいだわ！」
「そ、そこまでしなくってもいいのではないでしょうか？」
「駄目よ！アイツのおかげでこれまで何度煮え湯を飲まされたことか！」
「ミーシャさん、その人のことが好きなんですね」
「ななななな、何言ってるのよ！！なんであたしがあんな奴のことなんか！！」
「くすくす。顔が真っ赤ですよ」
「も、もう！蜜柑って、見かけに寄らずイジワルなのね！」
「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」
「ほら、さっさといきましょ！遅れちゃうわよ！！」
「ああっ！待ってください！」
　ミーシャさん、なんだかブスッとしてますけどまんざらでもないようです。
　好きな人、かぁ……
　晶君、今ごろ心配してるでしょうか……
　後でちゃんと謝っておくことにしましょう。