桜ヶ丘タワーの周りには既に人だかりができていました。
　よくみると、わたし達のように制服姿の女の子も結構いるようです。
　ちょっと安心しました。
「あーん！これじゃあ見ることができなーい！！」
「大丈夫ですよ。ほら、あの場所があいているようです」
　斜め前方に二人分はいれるスペースが空いています。
　位置としても申し分ありません。
「あっ、ホントだ！蜜柑凄い！」
「さ、誰かにとられないうちに」
　誰かに取られないうちに、っと。
　やった。場所の確保、成功です。
「早くこないかなぁ……なんだかドキドキしてきちゃった」
「わたしもですよ。デジタルカメラも持ってきましたし、写真に収めていい記事書かないと」
「いい記事？蜜柑って記者なの？」
「記者？というよりも新聞部の部員ですね。わたし１人しかいませんが……」
「うわぁ！それってすっごく大変じゃない！？頑張ってね」
「はい。皆さんに認められるような記事を書けるようになるまで、わたし負けませんから」
　そうです。
　こんなことでへこたれてはいけません。
　頑張れ蜜柑！
　ふぁいと、おー！！
「あ、始まるようですよ」
　ぞろぞろ、ぞろぞろと出てきます。
　みんな背広を着てネクタイを締めた正装です。
「それではこれより桜ヶ丘タワー落成記念式典を執（と）り行います」
　イベントの司会進行のお姉さんの声が響き渡ります。
　次々と来賓の人が紹介されていきます。
　進むに連れてみんなのドキドキ感が高まっていきます。
　わたしもドキドキ、バクバク状態です。
　そしてついに、あの人の番がやってきました。
「それでは続きまして、本日ゲストとしてきていただきました、プロサッカー選手の『佐藤彬』さんです」
「きゃー！！あっきらー！！」
　一際大きな歓声。
　黄色い声援が佐藤選手に向かって飛んでいきます。
「アキラー！！ステキー！！」
　ミーシャさんもおもいっきり叫んでいます。
　佐藤選手は白い歯を少し見せながら手を振って声援に応えています。
　やっぱり一流の選手は違いますね。
　とりあえず、写真に収めておくことにしましょう。
　デジカメと言うのはホントに便利です。
　早速１枚撮影完了。
　この分だと、なかなかいい記事が書けそうな予感がします。
「ああ、やっぱアキラってステキ……そう思わない？蜜柑」
「はい。とっても輝いてらっしゃいます」
「そうよねそうよね！ああ、あいつにアキラの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだわ」
「わたしは……」
「わたしは？」
「あっ、いえ、なんでもないんです」
「変なの」
　わたしはそんなことしたくないな……
　だって、晶君は晶君のままがいいから……
　なんて、恥ずかしいことを思わず言おうとしてしまいました。
　危ない危ない。
　そんな恥ずかしいこと、口が裂けても言えません。
　あっ、いよいよテープカットをするようです。
　カメラ用意、っと。
　うん、なかなかいいシーンが取れました。
　あっ、クスダマがわれて紙ふぶきが降ってきました。
　このシーンも収めておかないと。
　それにしても、凄い声援です。
　『アキラコール』が、まったく鳴り止みません。
　有名人って、凄いです。