げ、現在私は駅前の商店街に来ているのですが、あ、雨が叩きつけるように降っていて、まったく視界がききません。おまけに風も強くって少しでも飛ばされそ、きゃ、きゃぁ〜〜！！
　は、はぁはぁ……危なかったです。なんとか危険は去りましたけど、いつまでもこの場所にいるのは危険なので、安全な場所に避難することにいたしましょう。
　あっ、お久しぶりです。水無川蜜柑です。
　なんだかはしたないところをお見せしてしまいましたね。
　本当に申しわけございません。ペコリ。
　現在大型の台風１５号が日本列島を縦断中で、ここ桜ヶ丘市にも相当の被害が出ています。でも、テレビで見るだけだと実感がわかないんですよね。
　確かに海岸でサーファーが２０数人沖に流されたとか、キャンプに来ていた人達が川の中州に取り残されたとか、いろいろなニュースは目にします。
　それはそれでレポーターの人達は大変だなぁとか凄い被害がでてるなぁとは思いますよ。
　でもやっぱり、実感するのが一番だと私は思うんです。
　何事も経験が大切なのです。
　だからこうしてレインコート着て傘ももって、長靴も履いた完全武装で台風を体感しています。
　昨日このことを晶君にお話したら「蜜柑だけじゃ心配だ」っておっしゃってくださいまして、今日は一緒に台風の凄さを体感してくださってるんです。
　私もう、感激です。あまりにも嬉しくて涙が出てしまいそうです。
　でも晶君、私と違って傘だけで来たので心配です。
　びしょびしょに濡れてらっしゃるようですし。大丈夫でしょうか？
　風邪ひかないか、なんだか心配です。
　それにしても今度の台風は、とっても凄いです。
　風がとっても強くって、私達の傘も壊れてしまいました。先程はどこかに建てられているプレハブ小屋の屋根も吹き飛んでいきましたし。
　そんな中、一生懸命台風中継のリポートしているリポーターの人達って凄いです。
　こんなにも大変なことだったなんて、私知りませんでした。
　改めて尊敬しちゃいます。
　そんなにひどい天候の中なんですから、商店街を歩いてる人達の数は疎らです。
　ですから、晶君と二人でちょっとした探検気分です。
　きっと周りの人から見れば「なんて物好きな奴なんだ」って思われるんでしょうね。
　ちゃぽちゃぽ。
　まるで川のようになってる道路を歩くと大きな水しぶきが空中にはねとびます。
「凄い雨の量ですね。町中が水中にうまっちゃいそう」
「バーカ、そんなことあるわけねえだろ」
「ご、ごめんなさい」
　晶君に怒られてしまいました。
　やっぱり私って、まだまだ発想が幼稚ってことなんでしょうか？
　本当に凄いと思うのですが……この雨の量……
「でもま、お前の言うことあながち間違っちゃいないな」
「えっ？と、申しますと？」
「ホラみろよ。どこの店も店じまいしてるぜ」
「あっ……本当ですね……」
　晶君に言われたとおりまわりのお店をみると、シャッターを下ろしているお店が目立ちます。そして、それらの店先にはどこも「台風接近のため臨時休業」という掛札が貼られたりしています。
　やはり今日は商売が成り立たないと言うことでどこのお店屋さんも休まざるを得ない、と言ったところでしょうか。
「ふわぁ〜……開いているお店のほうが少ないですね」
「こんな天気の時に、商売熱心なこって」
「何事も一生懸命っていうことはとっても素晴らしいことだと思いますよ。私、尊敬しちゃいます」
「まぁ、確かに……ある意味、俺も台風に感謝しなくちゃいけないのかもな……」
「えっ？今なんて……」
「ん？ああ、いや、なんでもない」
「？？？」
　晶君、一体どうしたのでしょう？なんだかお顔が真っ赤です。
　ま、まさかお風邪をお召しになられてしまわれたとか！？
「だ、大丈夫ですか晶君？お顔が真っ赤になられているようですが」
「心配するな。なんでもないから」
「で、でも……」
「大丈夫だって。ほら、さっさと行くぞ」
「あっ、ま、まってください」
　うーん……
　やっぱり、無理をしてでもお止めしたほうがよろしかったのでしょうか？
　風邪をひいたら、私の責任ですしね。
　商店街の中は進んでも進んでも、いつものような八百屋のおじさんの威勢のいい宣伝や魚屋さんの呼びこみが聞えません。代わりにアスファルトに叩きつけられた雨音が心地よいリズムを刻んでいます。
「あれ？ちょっとなんだかおかしくないですか？」
　わたしはふと、違和感に気がついて足をとめます。
「おかしいって？」
「なんだかいつもと違うような気がするんですけど……」
「そうか？いつもと同じだと思うが」
「いいえ、やっぱりなんだか変です」
　私はなんとなくそう感じ、足を速めます。
　そして、目的の場所について、それは確信にかわります。
　それは全国展開している有名な大型スーパーなのですが、いつも違って電気がついていません。扉も固く閉ざされています。
「す、凄いです！台風の影響でヨーク堂も休みになるなんて！」
「おいおい、蜜柑、落着けって」
「落ちついてなんかいられませんよ！スクープです！これは大スクープです！！」
「はぁ……よく見ろ、アレを」
「えっ？」
　晶君が何かを指差しています。
　どうやらそれは立て看板のようです。
　一体なんでしょう？
「えっと……『今日は定休日』……定休日！？」
「わかったか？ここは臨時休業じゃなくって定休日。ホントお前ってそそっかしいな」
「は、はわわわわ」
　すっごく恥ずかしいです！
　穴があったら今すぐ埋まりたい気分です！
　わ、私ってばなんてそそっかしいんでしょう！！
　冷静沈着な行動、そして明瞭な分析こそ記者としての基本なのに！！
　晶君の前でこのような失態を犯してしまうとは。
　本当、一生の不覚です！！