「ありがとよ、お嬢ちゃん……」
　お巡りさんに両腕を抱えられながら、強盗さんは振り向きざまにこう言いました。
「おかげで目が覚めたよ。俺はただの臆病者に成り下がっていたのかも知れない」
「強盗さん……」
「だが、これからは勇気を持って闘っていこうと思ってるよ。平気で悪が許されるような世の中は、俺達大人が正していかなくちゃイケナイんだから」
「強盗さんも、お勤めを終えて立派な人になってくださいね」
「わかってるよ。迷惑をかけたなお嬢ちゃん。それじゃ」
　強盗さんはそう言い残すと、パトカーにのって走り去っていきました。
「いやぁ、蜜柑ちゃんのおかげで助かったよ」
「おじさん……」
「私も１つ、蜜柑ちゃんに教えられたよ。さっきの態度は立派だったよ」
「い、いえ、そんな……」
　なんだか恥ずかしいです。
　当たり前のことをいっただけなのに誉められるなんて……
「みかーん！！」
「蜜柑！！」
「あっ、はっちゃんにわかちゃん」
　見物人の人垣の中からはっちゃんとわかちゃんが飛び出してきました。
「大丈夫だった蜜柑！？」
「なにか変なことされなかった！？」
「わたしは大丈夫ですよ。ほら、この通り」
　はっちゃんとわかちゃんはしばらく心配そうな顔でわたしを見ていましたが、やがてホッと胸をなでおろしました。
「まったく、心配したよ。蜜柑が人質にされたって聞いた時にはさ」
「そうよ。ホント、無茶ばっかするんだから」
「えへへ……」
　わたしは笑うと、思い出したようにさっきかったおイモを袋から取り出しました。
「それでは、御二方に迷惑をかけてしまったお詫びにこのおイモをあげます」
「はい？」
「えっ？」
　二人は一瞬顔を見合わせましたが、笑い出しました。
「まったく、相変わらずマイペースだよな、蜜柑って」
「ホント、そうよね」
「はい、それがわたしのいいところですから」
　わたしはそう答えておまけに貰ったおイモをかじりました。
　ちょっと冷めてましたけど、いつもよりなんだかとっても御いしく感じられました。

　翌日、雪達磨食品の詐欺行為が強盗さんの告発によって全国の新聞の壱面を賑わせることになりました。
　強盗さん……これでよかったんですよね？
　わたしは新聞を眺めながら、強盗さんのような人達をなくすためにも、頑張って行かなければならないと決意を新たにしたのでした。