その日、第501統合戦闘航空団では、扶桑から届いた補給物資の中に紛れ込んでいた一台の全自動麻雀卓を使って、訓練が行われていた。
「いいか！いついかなる時でも、我々ウィッチは冷静な判断を忘れてはならない！これはそのための訓練である！」
　美緒の一声で始まったこの麻雀大会は、一番得点が高かった者が一番得点の低かった者へ、ひとつだけ命令することができるということもあって、皆真剣に取り組んでいた。
　その程よい緊張感に包まれた場の空気に、美緒とミーナは満足げな表情を浮かべたのは言うまでもない。
　そして対局も進み、残り一局を残すのみとなった。
（どうしよう……これ大丈夫かな……）
　現在トップとは圧倒的点差で最下位の芳佳はおどおどした態度で同じテーブルを囲んでいるペリーヌ、ルッキーニ、エイラの表情を伺いながら、テーブルの上に静かに牌を置いた。
「残念。それでは上がれませんわ」
　ペリーヌは軽くため息をつくと、牌をとって、そのままテーブルの上に置く。
　芳佳は安堵のため息をついた。
「宮藤さん！今日という今日は、貴女に思い知らせてさしあげますわ！」
　対局前にペリーヌに言われた言葉通り、芳佳はペリーヌに振り込む形で、点数を献上しまくっていた。
　とりあえず、今回は危機を回避できたらしい。しかし、だからといって危険が去ったわけではない。
　ペリーヌに続いて牌を取ったルッキーニは、一瞬ニヤリと笑った。
「リーチだし！」
　そして、耳と尻尾っピョコっとはやし、勢いよく牌を切る。
「ヒッ！」
　芳佳は一瞬体を震わせた。
　先程の対局でやはり同じようにリーチした後、芳佳が牌を掴んだ瞬間、ルッキーニから「その牌捨てないとおっぱい揉んじゃうぞー」と怪しいジェスチャー付きで言われ、勢い余ってその牌を捨ててしまい、上がられ、美緒からこっぴどく叱られた。
「ねーシャーリー。あたしが勝ったら芳佳に何してもらう？」
「うーん……そうだなー」
　話を振られたシャーロットは、腕組みをしたままバルクホルンを見ると、ニヤリと笑った。
「ピンクのフリルのドレスを、バルクホルンと一緒に着てもらうってのはどうだ？」
「なっ！！」
　突然話を振られたバルクホルンは絶句する。
「ふ、ふざけるな！！どど、どうして私がそんなものを着なければいけないんだ！」
　そして当然の如く、激怒した。
「えー？トゥルーデ着ればいいじゃん。宮藤と姉妹みたいでお似合いだよ？」
　援護射撃とばかりに、ハルトマンがニヤニヤしながらバルクホルンを見る。
　その言葉に、バルクホルンは顔を真っ赤にした。
「み、宮藤！上官命令だ！！何が何でも勝て！！」
「は、はい！」
　バルクホルンの言葉に、芳佳は条件反射的に返事をする。
「騒がしい奴らだな……」
　そんな騒がしい雰囲気などお構いなしに、エイラは淡々と牌をとり、そのまま場に出した。
「宮藤、今日は負けないからな。覚悟しろよ」
　対局前にエイラから言われた言葉であったが、言葉とは裏腹に、今まで一回も上がっていない。
　それが返って芳佳を不安にさせていた。
　そして芳佳の番になり、牌を引いた。
「！！」
　その牌を見て、芳佳の動きが止まる。
　それはまさに、ルッキーニの当たり牌であった。
　しかし芳佳は、同じ牌を４枚持っている。
　だが、カンをすればドラが増え、相手に高い手で上がられる危険が高くなる。
「宮藤は、ここが正念場だな」
「ええ、そうね」
　美緒とミーナが真剣な眼差しで、芳佳を見る。
　その突き刺さるような視線を察知した芳佳は、牌から視線を逸らし、周りを見回した。
　そして、心配そうに芳佳を見つめるリネットと視線が合う。
「芳佳ちゃん……頑張って」
　リネットの言葉に芳佳は表情を引き締めた。
（そうだよ……私、絶対負けられない。リーネちゃん、見てて！）
「カン！」
　芳佳は同じ４枚の牌を倒した。
「あらあら宮藤さん。気は確かですの？」
　ペリーヌが茶化すように言うが、芳佳はそれを無視して、山から牌を取る。
「カン！」
　そして芳佳は、再び４枚の牌を倒した。
「２連続カン？」
　ルッキーニが少し表情を強張らせる。
「そ、そんなことって！？」
「ま、まさか……！」
　芳佳は山から牌を取ると、ためらうことなく牌を倒した。
「カン！」
　３度発せられた声に、ペリーヌとルッキーニは驚愕の表情を作る。
（見ててリーネちゃん……これが私の……私の戦い方……！）
　そして山から牌を取ると、そのまま手牌を全てオープンにした。
「ツモ……四暗刻」
「ありえませんわ！！」
「嘘でしょー！？」
　ペリーヌとルッキーニは驚きのあまり立ち上がる。
　いや、二人だけではない。それは周りにいる観戦者達も同じであった。
　皆一様に、信じられないといった表情で見ている。
「リーネちゃん……私、やったよ！」
　芳佳は喜色満面の表情でリーネを見た。
「……悪いな宮藤。その上がり、無効だ」
　しかし、エイラの一言に、芳佳は固まる。
「……えっ？」
　そして恐る恐るエイラを見ると、彼女の手牌も倒されていた。
「お前が三度目のカンをしたとき、私がアンカンで上がったのさ。忘れたのか？私の能力は未来予知だって言うことを」
「そ、それじゃあ……」
「そ。お前の四暗刻は無効。でもって私の国士無双あがりで、３２０００支払な」
「そ、そんなー！！」
　一転して地獄に落とされた芳佳は、力なく座り込む。
「さーて、宮藤にどんなことしてもらおっかなー？」
　そんな芳佳を見てニヤニヤ笑うエイラ。
「もうエイラ。芳佳ちゃんに意地悪しちゃダメじゃない」
　そんなエイラをたしなめるサーニャ。
（私……やっぱダメだなぁ……）
　そして芳佳の心は暗くブルーに染まっていくのであった。