「デート！？」
　その言葉を聴いた瞬間、才人は驚きの声を上げた。
　生まれてこの方、女の子からデートに誘われた事など一度もない。ましてやデート自体をしたことがない。
　そんな寂しい高校生活を送っていた自分が、今生まれて初めてデートに誘われてる。
　しかもその相手は、優しくてかわいくて、おまけに巨乳なシエスタだ。
　何かの間違いでは？
　才人の頭の中に真っ先に疑問形が浮かぶ。
「はい」
　しかし、シエスタはそんな才人の疑問を打ち消すかのように、天使の微笑を浮かべた。
「俺がシエスタとデート……」
　才人の脳裏に薔薇色の妄想が浮かんでくる。
「えへへ……」
　手をつないで一緒に歩くシエスタ、草むらに座って語り合うシエスタ、夕陽の中で抱擁するシエスタ、星空の下で熱い口付けを交わすシエスタ、そして……鬼のような形相を浮かべるルイズ……
「いいっ！？」
　一瞬にして現実から引き戻された才人は２度３度頭を強く振った。もしシエスタとデートなんかした場合には、ルイズからどんな折檻を受けるかわかったものではない。
「でもなぁ……」
　才人はルイズをチラッと見た。ルイズは非常に不機嫌そうな表情を作っている。既に爆発寸前といった感じだ。
　命の危険を感じた才人は、後ろ髪を引かれつつも、断腸の思いでシエスタの申し出を断ることにした。
「あ、あのな、シエスタ。俺……」
「いいわよ」
「……へ？」
　突然のルイズの言葉に、才人は思わず素っ頓狂な声を上げてルイズを見た。
「だから、シエスタとデートしてもいいって言ってるの」
「マジで！？」
　ルイズの信じられない言葉に、才人は目を丸くする。
「貴族に二言はないわ」
　ルイズは仏頂面のまま、ボソッと言う。
　何かおかしい。
　才人は直感的にそう感じずにはいられなかった。
　何か変なものでも食べたのか、あるいは薬でも飲んだのか、それとも新手の嫌がらせか。
「…………」
　才人は無言になって考え込んだ。この先の展開を。
　しかし、その態度が気に入らなかったのか、ルイズは急に怒り出した。
「あーもう！わたしがいいって言ってるでしょ？主人として命令します。サイト、あんたシエスタとデートなさい。使い魔は主人の命令には絶対なんだからね！」
「お、おう……」
　まったく予想外の展開に、才人はわけがわからなくなった。

　その夜の、ルイズの部屋。
　ネグリジェではなく、才人が古着屋で購入したＹシャツに着替え終わったルイズは、ベッドに腰掛け、無言のまま、上目遣いで恥ずかしそうに才人をじっと見ていた。
　上半身はワイシャツ一枚、下半身はパンツだけ。まるで誘っているようにしか見えない。
　現に才人も、いつもの１５０％増しで魅力的に見えるルイズに対し、理性を抑えるのに必死であった。
　このまま理性に任せて行動をしても、まず間違いなく最悪の結果になる。
　ルイズは明らかにおかしい。
　これが才人の出した結論であった。
　あのシエスタの約束があってからというものの、二人はまともに会話を交わしていなかった。
　そのため、二人の間にはギクシャクした雰囲気が流れていた。
　このままではいけないと感じていた才人は、根本的な原因を問いただすことにした。
「……で、ルイズ。一体何があったんだ？」
「な、何にもないわよ」
　才人がルイズを見つめると、ルイズは咄嗟に視線をそらした。
「嘘つけ。お前、俺に隠し事してるだろ。一体何を隠してるんだ？」
「だ、だから何も隠してなんかないってば！」
「じゃあ、なんで俺の目を見ることが出来ないんだ？」
「そ、それは……」
「ホントはお前、俺がシエスタとデートするの嫌なんだろ？お前の態度がそう言ってるもんな」
「ち、ちが……！」
「俺は断ろうと思ったけど、ルイズが命令だって言ったから結局はＯＫしたけど。一体、何があったんだ？」
「……仕方、ないじゃない……」
　ルイズは弱々しい声で呟いた。
「勝負に負けて、そういう条件だったんだから」
「はぁ？勝負に負けただぁ？」
　初めて自分が賭け事の対象にされていたことを知って、才人は驚きの声を上げた。
「つまり、シエスタがお前に勝ったから、デートを許可するって事か？なんだよそれ！」
「仕方ないじゃない！全部、あんたがいけないんじゃないの！！」
「お、俺……？」
　突然非難の矛先を向けられた才人は、言葉に詰まった。
　逆ギレ、という言葉が一瞬だけ頭をよぎったが、どうもそういう雰囲気ではない。
「だってあのメイド、一回だけでもデートしたら、才人のこと潔く諦めるっていうんだもの……仕方ないじゃない……」
　最後は消え入りそうな声でボソボソと呟く。
「あんた、わたし以外の女の子ばっか見てるから、わたしだけをずっと見てもらうようにするためには、こうするしか……ないじゃない……」
　いつの間にかルイズの瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。
「ルイズ……」
　才人はルイズの隣に腰掛けた。
「ごめんなルイズ。お前の気持ちも考えないで……」
　そして優しく頭を撫でる。
「サイト……」
　ルイズは上目遣いでサイトを見たが、急にプイっと横を向いた。
「ほ、ホントどうしようもない使い魔なんだから。ご主人様を、こんな気持ちにさせるなんて」
「ルイズ……」
「こ、今回は特別だけど、次からは絶対許さないんだからね！だから、約束して」
「約束？」
「そ、そうよ。約束よ！わたしだけを見てるって、誓いの証を立てなさい！！」
　言うなり、ルイズは唇を軽く突き出して、瞳を閉じる。
「……わかったよ、ご主人様」
　才人は、言われるまま、ルイズに誓い口付けを行った。

　そして翌朝。
　才人とシエスタは、馬車に乗って学園を出発し、近くの街に向かっていた。
「夢見たいです。サイトさんとこうしてデートできるだなんて」
　サイトの隣に座っているシエスタは、早くも上機嫌だ。
「お、俺もだよ」
　才人もぎこちなく笑って返す。もちろん、ルイズの鬼のような形相が瞬時に思い浮かんだのは言うまでもない。
「ホント、夢なら覚めなければいいのに……」
　そしてそのままサイトに寄り添ってくる。
「シ、シエスタ？」
　才人は戸惑いの声を上げた。角を生やしたルイズが、ピシピシ鞭を振り下ろす音が幻聴として聞こえてくる。
「そ、そんなに、くっつかなくても」
「どうしてですか？わたし達、恋人同士じゃないですか」
「ええっ！？」
　シエスタの言葉に、才人は驚きの声を上げた。
　シエスタと恋人というのは、それはそれで嬉しいが、後でルイズに何をされるかわかったものではない。
　第一、シエスタと『恋人』と定義出来るようなイベントは、まだ何も体験していないはずだ。
「シエスタ、それはちょっと……」
「わかってます」
　才人の言葉に、シエスタは悲しそうに呟いた。
「サイトさんはミス・ヴァリエールのもの。平民のわたしが張り合うこと自体、おこがましいんです。だから、わたし、サイトさんのこと諦めようと何度も思いました。でも、この気持ちはどうしても止められなくって……」
「シエスタ……」
「だから……どうしてもサイトさんとデートしたかったんです。そうすれば、サイトさんのこと、きっぱり諦められるような気がしたから……」
「シエスタ……」
　サイトはシエスタをギュッと抱きしめた。
「ゴメン……」
「いいんです……勝手にサイトさんのこと好きになったわたしがいけないんですから……その……２つのお願い、聞いていただけますか？」
「なんだい？」
「ひとつは、わたしのことを今日一日だけ、サイトさんの彼女として扱ってほしいんです」
「……わかった。それで、もうひとつは？」
「サイトさんの国のやり方で、デートしてほしいんです」
「俺の世界の？」
「はい」
　サイトは思案に暮れた。日本式デートというものはどういうものだろう。
　生まれてこの方、女の子とデートというものをしたことがないので、そう言われてもピンとこない。
　しかし、シエスタのお願いなので、断るわけにも行かない。
「わかった。努力してみる」
「はい……」
　シエスタは目を閉じると、しばらく才人のぬくもりを感じていた。

　街に着き、馬車を降りた二人は、街の中を歩いていた。
「サイトさん、どこへ行きましょうか？」
「そうだなぁ……」
　シエスタの問いかけに、才人はキョロキョロと辺りを見回した。
　この街の地理に関して、才人はあまり詳しくなかったりする。そのため、シエスタもそれを知っていて気を遣ってくれているのだが、才人としてはシエスタの「日本式デート」の願いを叶えるべく、どこの店でもいい、というわけには行かない。
「とりあえず、歩こうか」
「はい」
　才人の言葉に、シエスタはコクンと頷く。
　店は歩きながら探せばいい。それよりも、恋人らしいことをしないと。才人の脳裏にある考えがよぎる。
「それじゃあ」
　才人はおもむろに、右手でシエスタの左手を握り締めた。
「サ、サイトさん？」
　突然の出来事に、シエスタは驚きの声を上げる。
「俺の国じゃさ、恋人同士はこうやって手を繋いで、街中を歩くんだ」
　才人はもっともらしく、説明した。実際には日本だけではないのだが、この際細かいことは気にしないことにした。
「そうなんですか？」
　しかし、何も知らないシエスタは、戸惑った様子で聞き返してくる。
「ああ」
「そうですか……」
　シエスタは少し頬を赤らめながら、視線をそらす。
「あ、あの、サイトさんの手って、あったかいですね」
「そうかな？」
「はい。サイトさんの心のように、とってもあったかいです」
「えっ……」
「ホラ早く早く。サイトさん、行きますよ」
「あ。お、おい待ってくれよシエスタ」
　半ばシエスタに引っ張られる形で、才人も一緒に歩き出す。
　しかしそんな仲睦まじい二人の様子を、物陰から監視する６つの瞳があった。
「サイトの奴！何よあんなにデレデレしちゃって！！」
　その一人、ルイズは早くもオカンムリ状態になっていた。
「もうダーリンってば、あたしっていうものがありながら、あんなメイドとイチャついちゃって……！」
　もう一人、キュルケは羨ましそうに二人の様子を見つめている。
「…………」
　そして最後の一人、タバサはマイペースな様子で本を読んでいた。
「やっぱりきてよかった。主人として、盛りのついた犬が何かしでかさないように、しっかりと監視しなくちゃね」
　ルイズは自分に言い聞かせるように言う。
　才人にデート許可を出したものの、やはり気になって様子を伺いに来たのは言うまでもない。
　キュルケとタバサはそんなルイズに、半ば強引についてきたのであった。
　もちろん、この二人も才人の事が気になったからに他ならないのだが。
「とにかく、二人の後を追うわよ」
「了解」
「わかった」
　三人は互いに顔を見合わせ頷きあうと、気づかれないように才人とシエスタの後をついていった。

「とりあえず、ここに入ろうか」
「はい」
　才人がシエスタを連れて入った店は、装飾品の店であった。
　店の中には、指輪やペンダント、イヤリングといった装飾品が陳列されている。
「いろんな商品がありますね」
「そうだなー」
　シエスタはイヤリングを手にとると、耳たぶに当てて鏡の前でポーズを取る。
「サイトさん、どうですか？似合いますか？」
「そうだな。とってもよく似合ってるよ。でも……」
「でも？」
「俺は、シエスタにはこっちのほうがよく似合うんじゃないかなって思うんだ」
　そう言うと、才人は金色の十字架のペンダントを手にとって、シエスタの背後から首にかけた。
「ほらね。こうすると、シエスタは聖母様みたいだ」
「聖母様……ですか？？」
「ああ。とっても優しくて、おしとやかで、慈悲深いシエスタのイメージにピッタリだろ？」
「サイトさん……」
　シエスタは頬を真っ赤に染め、俯いてしまう。
「俺からのプレゼント。大事にしてほしい」
「……はい……」
　シエスタはコクンと頷いた。
　一方、そんなラブラブな店内とはうって変わって、店外は殺伐とした空気に包まれていた。
「何よサイトの奴！わたしにプレゼントなんかくれたことないのに！！」
「ダーリン酷いわ！あんな優しい言葉、あたしに一度もかけてくれたことないのに！！」
　店内の様子を伺っていたルイズとキュルケは、それぞれ非難めいた言葉を口にする。
「…………」
　一方、そんな二人とは対照的に、タバサは黙々と本を読み続けていた。

　買い物を終えた二人は、店を出た。
「サイトさん、次はどこへ行きましょう？」
「そうだな……」
　才人は少し考え込む仕草を見せると、おもむろにシエスタの腕に自らの腕を絡ませた。
「サ、サイトさん！？」
　突然の出来事に、シエスタは驚きの声を上げる。
「俺の国じゃさ、とっても仲のいいカップルは、こうやって腕を組んで歩くんだ」
「で、でも……みんな見てて、恥ずかしいです……」
「そうか？俺は恥ずかしくないけどな。まぁ、相手がシエスタじゃなきゃこんなことしないけど……」
「サイトさん……」
　シエスタは才人に寄り添う。
「サイトさんの意地悪」
「……とりあえず、その辺を見て回ろうか」
「はい」
　そして二人は歩き出す。
　そんな二人を監視していた三人はというと。
「あの駄犬！なんてことやってるのよ！」
「ダーリン！そんな女とくっつかないで！！」
「…………」
　相変わらずであった。

　装飾品の店を出た二人が次に向かった先は、酒場であった。
　ただし、酒場といっても、日本で言うオープンカフェのような店で、店の外にも丸いテーブルが置かれ、才人やシエスタと同い年くらいの少女達が、おいしそうにジュースを飲んでいる。
　才人は空いてるテーブルの席へと座った。向かい側には、シエスタが腰掛ける。
　程なくして、ウェイトレスがメニューを持ってきた。
「シエスタは何を飲みたい？」
「そうですね……サイトさんと同じものを」
「それじゃあ、この『木苺のジュース』って奴でいいかな？」
「はい」
「それじゃあ……」
　才人は小声でウェイトレスに何かを囁く。
　ウェイトレスは才人の言葉を聞くや怪訝な表情を浮かべたが、すぐに笑顔になって一礼すると、そのまま店のほうへと戻っていった。
「サイトさん、何を言ったんですか？」
　不思議そうに尋ねるシエスタに、才人は言った。
「内緒」
「内緒なんてズルいです。サイトさんの意地悪」
　シエスタはプクッとむくれる。その様子があまりにもおかしかったので、才人はつい噴出してしまった。
「ひっどーい！笑うことないじゃないですか！」
　心外だと言わんばかりに、シエスタは抗議する。
「ゴメンゴメン。それじゃあ、ひとつだけヒント」
　才人はピンと人差し指を立てた。
「俺の世界のデートと関係あること」
「サイトさんの世界と？」
「そう」
「なんでしょう？」
「それは後でのお楽しみ」
　才人はそれ以上語ろうとせず、ただ微笑んでいる。
　シエスタはますます興味をかきたてられたが、これ以上聞いても教えてくれそうもないので、とりあえず才人との会話を楽しむことにした。
「……だから、私言ったんですよ。それじゃあ、いつまでたっても変わりませんよって」
「へぇ。シエスタは勇気あるなぁ。とても俺にはそんなこと言えないぜ。でも、そのシエスタの怒った顔、ちょっと見てみたかったかも」
「それ、どういう意味ですか！？」
「いやぁ、今みたいな顔したのかなぁって」
「もう！サイトさん意地悪です！」
「ははは。ゴメンゴメン」
　二人の弾んだ声が響き渡る。そこへ、先程のウェイトレスがやってきた。
「お待たせしました。ご注文の、木苺ジュースです」
　そして才人が注文したと思われるものを、テーブルの上に置く。
「ごゆっくりどうぞ」
　ウェイトレスは一礼すると、そのまま店の中へと戻っていった。
「えっと……サイトさん。これは？」
　シエスタはキョトンとしながら才人に尋ねる。
　テーブルの上には、大きいジョッキがひとつ。その中にジュースが入っており、二つのストローが浮かんでいた。
　ジョッキがひとつしかないのは、才人がそうさせたからというのは容易に想像がつく。しかし、二つのストローの意味がわからない。
　そんなシエスタを見て、才人は笑った。
「俺の世界の恋人達が必ずすること」
　そして、才人は頬杖をつきながら、片方のストローの先を口に咥える。
「え……えええ〜っ！？」
　才人の行動に、シエスタは大声を上げた。
「サ、サイトさん。いくらなんでも、それは無理です！」
「どうして？俺達恋人同士だろ？それに、シエスタがそうして欲しいって言ったんじゃないか」
「で、でも……」
「まぁ、シエスタが嫌ならいいけど。でも残念だなぁ。俺、シエスタにしかこんなことしないのに」
「もぅ……サイトさん意地悪です」
　シエスタは頬を赤らめながら、頬杖をついてもう一方のストローの先を口に咥える。
　そして二人同時に、ジュースを吸い上げた。
「このジュース、酸っぱいけどおいしいな」
「はい……そうですね……」
　シエスタは頬を紅く染め、瞳を潤ませながら才人を見つめる。
　一方、そんな甘い雰囲気を漂わせてる二人とは対照的に、物陰にいる監視者達には怒りの炎が渦巻いていた。
「ああああ、あのバカ犬！！こここ、公衆の面前で、ななな、なんて破廉恥な真似を！！いい、一体、なな、何やってるのかしら！！」
「ダーリン不潔！！そんなにその女がいいの！？見損なったわ！！」
　ルイズとキュルケは、今にも飛び出しそうなくらい殺気を放っている。
「……羨ましい……」
　しかし、タバサの思いがけない一言が、そんな彼女達の行動を制止した。
「えっ！？」
「今、なんて……？」
　ルイズとキュルケは咄嗟にタバサを見る。
「……なんでもない」
　タバサは何事もなかったかのように、持っていた本に視線を落とした。

　酒場を後にした二人は、そのまま街の中を歩いていた。シエスタは腕を組んだまま才人にピッタリと寄り添っている。
　さて、これからどうするか……
　才人がそんなことを考えている時に、シエスタが話しかけてきた。
「あの……サイトさん、わたしからもリクエストしていいですか？」
「なんだい？」
「その……ジュースを飲んだら、ちょっと気分が……そこの宿屋で休んで行きたいんですけど……」
「あ、ああ」
　シエスタの言葉に、才人は慌てて宿屋へと足を向ける。
「ご、ゴメン。シエスタの口には合わないジュースだったとは思わなくて……」
「い、いえ、その……サイトさんのせいじゃないですから」
　才人は責任を感じながら、シエスタを連れて宿屋へと入った。
　カウンターにいた宿の主人らしき人に、事情を話し、２階の空き部屋へと向かう。
　そして部屋に入ると、シエスタをベッドに座らせ、才人も隣に座った。
「大丈夫？」
　才人は心配そうに、シエスタを見る。
　シエスタは少し息遣いが荒く、頬を上気させていた。
「はい……」
　シエスタはコクンと頷くと、にっこり微笑んだ。
「サイトさん。今日はありがとうございました。わたしのわがままを聞いてくださって」
「いいよ別に。俺だって楽しかったし。でもホントゴメン。シエスタに嫌な思いさせちゃって」
「とんでもない。嫌な思いなんて全然してませんよ」
「え？でも、ジュース飲んで……」
「そうですね……ジュース飲んでから、ずっとドキドキが収まらないんです」
「えっ？」
「今だって、ほら……」
　シエスタはそう言うなり、才人の右手を自分の右胸へと押し付けた。
「し、シエスタ！？
　突然の出来事に、才人は戸惑いの声を上げた。右手のひらに、やわらかい弾力のある感触と、ドキドキと高鳴る鼓動が伝わってくる。
「ねっ？とってもドキドキしてるでしょ？」
「え、えっと……」
「サイトさんがいけないんですよ？あんなことするから。責任とってください」
　シエスタは潤んだ瞳をゆっくり閉じた。
　ゴクッと才人は唾を飲み込む。
　これって、つまりアレだよな……
　ドキドキしながら、才人は心の中で深呼吸を２，３回繰り返して、心を落ち着ける。
　やがて才人は、ゆっくりとした動作で、シエスタに顔を近づけた。
　そして唇が重なり合おうとした瞬間。
　不意に勢いよくドアを開ける凄まじい音が、飛び込んできた。
　才人は慌ててシエスタから離れる。
　そして恐る恐るその音の方角を振り向くと、般若の形相をしたルイズに、キュルケとタバサがいた。
「ル、ルイズ？それにキュルケとタバサも！？」
「この万年発情犬！！こんな女の安っぽい色仕掛けに引っかかるなんて信じらんない！！」
「あ、いや、待て！これだはだな、その、なんていうか」
「お黙り！！その破廉恥根性、わたしが叩きなおしてあげる！！」
「そうよ！！見損なったわダーリン！！」
「最低」
　ルイズの他に、キュルケやタバサも非難の声を上げる。
「やめてください！」
　しかし、その才人をかばったのはシエスタであった。
「サイトさんは悪くありません。サイトさんを責めないでください！」
　シエスタは決意に満ちた瞳で、ルイズを睨みつける。
「な、何よ……その目は……」
　あまりの迫力に、ルイズはたじろぐ。
　シエスタは強めの口調で、ルイズに話しかけた。
「ミス・ヴァリエール。本日はわたしのわがままを聞いてくださって、ありがとうございました。おかげで、わかったことがひとつあります」
「な、何よ。わかったことって」
「わたし、サイトさんのことを諦めるなんて、出来ません！」
「はぁ！？」
　突然の言葉に、ルイズは激昂した。
「ちょっとあんた！！約束はどうしたのよ！？約束は！！」
「あら？わたしは平民ですから、二言も三言もありますよ？」
　しかし、シエスタは涼しい顔で、ルイズに反論する。
「だから、サイトさんを諦めるなんて、絶対出来ません！サイトさん、大好きです！！」
　そしてシエスタは、強引に才人に唇を重ね合わせた。
「なっ……！」
　ルイズは絶句した。
　たちまちステッキに、魔法力が集まっていく。
「そう……いい度胸ねあんた達……わたしの前で、そんなことするなんて……！」
「わっ！？ば、バカ！！待てルイズ！！」
　慌ててシエスタから離れた才人は、ルイズに言葉をかけるが、時既に遅し。
「サイトのバカーーーー！！」
　次の瞬間、物凄い爆音と激しい衝撃が、才人の感覚及び意識を奪っていった。