翌日。いつもより早起きした俺は、身支度を整えて、由真と待ち合わせの場所へと来ていた。
　時刻は午前９時。約束の時間までまだ十分時間がある。
　とりあえず、由真を待たせるということだけは避けられたようだ。
　今日は天気もいいし、今日は絶好のデート日和だ。
　とは言っても、由真が来てくれるっていう保証はないけど。
　この前も結局待ちぼうけを食らう羽目になったし。
　まぁ、仕方ないか。今日もそんな結果になったとしても由真に酷いことした罰だと思えば。
　でも、今日はちゃんと来てくれよ……
　……………………
　…………
　……
　３０分経過。午前９時３０分。待ち合わせ時刻だ。
　由真の姿は一向に見えない。
　あいつ……やっぱり来てくれないのかな？
　いやいや、きっと物陰で俺が慌てふためいているのを観察しながら楽しんでるに違いない。
　まったく酷い奴だ。
　きっと、映画の上映開始１０分前くらいに姿を現して驚かそうって魂胆だろうが、そうはいかないぞ。
　俺だって……
　……………………
　…………
　……
　午前１０時。映画の上映が始まる。
　由真の姿は、やはりない。
　おかしいな。ちゃんとチケット渡したのに……
　いやいや。まだ最初の上映が始まったばっかりだ。
　きっと由真の奴、寝坊して今ごろこっちに向かっているに違いない。
　まったく、こんな時くらいちゃんと約束の時刻守れよな……
　……………………
　…………
　……
　正午０時。お昼時だ。
　あちらこちらで昼食を取りにいくカップルの姿がやたらと目に付く。
　中には「あの子、さっきからあそこで待ってない？」「きっと彼女に振られたんだぜ」「諦めの悪い男ってイヤよねー」「今ごろ別の男と遊んでるんじゃねーの？」などと陰口をたたく奴がいるが、気にしないことにする。
　由真はきっと、来てくれるはずだから……
　……………………
　…………
　……
　午後２時。やはり由真の姿はない。
　やはり由真はこないのか？
　いいや、そんなはずはない。そんなはずは……
「あれぇ？河野、くん……？」
「えっ？」
　俺はその声のしたほうを振り向く。そこには小牧が立っていた。
「なんだ小牧さんか。どうしたの？ひょっとしてデートとか？」
「ちちち、違うよぉ〜！」
　小牧は顔を真っ赤にして、力いっぱい否定する。
「ちょっと買い物に、ね。そういう河野くんは？」
「俺？うん、ちょっと待ち合わせ」
「待ち合わせ？」
　小牧はキョトンとし、表情を曇らせながら聞いてくる。
「で、でも河野くん、１０時くらいからここにいなかった？」
「えっ？俺はついさっき来たばっかりだけど？ちょっと早く着きすぎちゃったけど」
　小牧の疑問に、俺はわざとすっとぼける。本当のことなんか話せっこないし。話したら話したで余計なおせっかい焼かれるに決まってるから。
「ふーん……そうなんだ」
　小牧も納得したのか、それ以上詮索しようとしない。
「それじゃあ、頑張ってね」
　小牧はそれだけ言い残すと、去っていった。
　ふぅ……
　俺はほっとため息をつく。
　もし由真があんな時に来たら、きっと勘違いして帰っちまうだろうからな。
　まったく由真の奴、こんなに気を使わせやがって……
　……………………
　…………
　……
　午後４時。だんだんと空模様が怪しくなってきたかと思っていたら、ポツポツと雨が降り出してきた。
　おいおい。雨が降るなんて聞いてないぞ。今日は１日中快晴じゃなかったのか？まったく、これだから最近の天気予報は……
　傘なんか当然持ってきてるわけがない。
　どこかで雨宿り……したいのは山々だが、由真がいつ来るかわからないから、ここから動くわけには行かない。
　幸い、この程度の雨だったら濡れても大丈夫だろう。どうせ通り雨だろうし、すぐに止むだろうから。
　はぁー……待つって結構疲れるな……
　……………………
　…………
　……
　午後６時。最後の上映が始まる。
　おいおい勘弁してくれよ。いくらなんでも、こんな仕打ちはないだろ？
　由真の奴に、絶対何か一言言ってやらないと気がすまん。
　大体、あいつは強情んあんだよな。
　変に見栄っ張りで、やかましくて、勘違いが激しい奴で……
　はぁ……もうちょっと待ってみるか……
　……………………
　…………
　……
　午後８時。降り続いていた雨は次第に激しさを増し、土砂降りになっていた。
　天は分厚い灰色の雲に覆われ、辺りを真っ暗にしている。
　由真の奴……やっぱり俺を許しちゃくれなかったか。
　まぁ、わかっていたけどさ。わかっていたことだけど……
　それでも、俺は由真が来ることを信じたい。
　どうしようもない馬鹿だって呆れられるかもしれないけど、それでも俺は由真を信じたい。
　下着の中までぐしょぐしょに濡れてしまったが、雨宿りなんかせずここで待ちつづけよう。
　由真が必ず来てくれることを信じて……
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　…………
　……
　しかし、この日由真が現れることはついになかった。
　俺はぐしょぬれの体と重い足を引きずって家へと帰った。