「ハックション！！」
　自分でも驚くくらいの大きなくしゃみで、俺は目を覚ました。
　が――
「？」
　体が思うように動かない。頭がクラクラし、目眩もする。
　ゾクゾクするような悪寒に、軽い吐き気。
　気分が悪く、せきも出てくる。
「……完璧に風邪だな、こりゃ」
　まぁ、あんなクソ寒い中雨に打たれ続けて風邪を引かないって言うほうがどうかしているんだが。
　自業自得――タマ姉のそんな呟きが聞こえてくる。
　とりあえず、今日は学校を休むとしよう……

　ピンポーン

　タイミングよく玄関のチャイムが鳴らされる。
　このみが来てくれたなら、ちょうどいい。このみに今日学校を休むって担任に伝えてもらうことにしよう。
　あ、でもその前に、風邪をうつしちゃいけないからマスク、マスク……っと。
「ほーい」
　マスクを装着し、おぼつかない足取りで玄関へと向かう。
　ガラス越しに、このみの影が見えた。
「今開ける」
　玄関をかけると、制服を着てかばんを持ったこのみの姿があった。
「ど、どうしたのタカくん！？顔真っ赤だよ！？」
　俺の姿を見たこのみは驚いたように声をあげる。
「いやぁ、ちょっと風邪を引いちゃったみたいでな……ゴホッゴホッ！」
「だ、大丈夫！？」
「いや、全然大丈夫じゃないから、今日は病院に行って家で寝てる。学校は休むから、先生にそう伝えておいてくれ」
「う、うん……」
「お見舞いとかにもこなくていいからな。っていうか絶対来るな。俺はゆっくり休みたいから」
「う、うん……わかった……」
　このみは渋々納得したように頷く。そしてため息をついた。
「まったく、春だっていうのにおへそなんか出して寝てるからだよ。タカくん寝相悪いもんね」
「悪かったな」
「ちゃんと今日１日、安静にしてなくちゃ駄目だよ？」
「わかってるって。それじゃあ頼んだぞ」
「うん。じゃあね。行ってきまーす」
　このみは手を振りながら駆け出していく。
　恐らくタマ姉との待ち合わせ時刻が迫っているのだろう。
　さて……と。
　俺は家の中に戻って鍵をかけると、キッチンへと向かった。
　冷蔵庫の中身は……っと。うん、なんとか大丈夫っぽそうだ。
　氷も大量にあるし。氷枕もちゃんと冷えてるな。
　とりあえず、今は何も食べたくないから確認だけ。
　俺はそのまま部屋へと戻り、体温計で自分の体温を測る。
　体温計を使うのは何年振りだろう……
　体温計を脇に挟み、検温が終わるのを待つ。
　１０秒、２０秒、３０秒……
　ピピッピピッピピッ
　検温の終了を告げるアラームが小さく鳴り響き、俺は体温を確認する。
「げっ！？」
　そして言葉を失った。
　体温計は４０．３℃の数値を表示している。
「計測ミスだよな？」
　俺は再度脇脇に体温計をはさみ、検温を行った。
　２０秒、４０秒、６０秒……
　　ピピッピピッピピッ
　先程と同じようにアラーム音を確認してから、脇から体温計をとり、体温を確認する。
　今度は４０．６℃を示していた。
「さっきよりもあがってるじゃん……」
　俺は３度目を計ることはせずにそのまま体温計をケースの中に戻した。
　とりあえず今言えることは……冗談抜きで、かなりまずい？
　俺は保険証を確認し、電話でタクシーを呼ぶ。
　まさかこんな代償を支払うことになるなんて……
　着替えてお金を確認し、迎えに来たタクシーに乗り込んで病院へと向かう。
　そして病院で注射やら点滴やらを受けて、薬を処方してもらい、タクシーに乗って家に帰ってくると、用意しておいた洗面器の中に氷と水をぶち込み、タオルも入れて、ついでに氷枕も持って自分の部屋へと行き、寝巻きに着替えてからベッドでゆっくり眠った。