かんかん照りの太陽の下、蒼い水面が煌びやかに輝く。
　青空を遊泳する海猫。
　時折イルカが水面から顔を覗かせ、大きく跳ね上がる。
　艦上から聞こえてくる賑やかな声。
　杉本珊瑚率いる補給艦明石は、横須賀に向けて大海原を疾走していた。
　久方ぶりの陸上。
　久方ぶりの休息。
　明石クラスメンバーのテンションが、自然と高まっていく。
　そんな状況であるのに、今日はさらにテンションを上げるイベントが用意されていた。
　きっかけは、副長からの一言であった。
「艦長は、もっとクラスのメンバーにサービスするべきです！」
「サービス？」
　副長の言葉に珊瑚はいぶかしげな声を上げる。
　写真撮影のためにコスプレしたり、メンバーの要望で添い寝したり、補給艦間宮の藤田優衣艦長に頼んでお菓子を差し入れして貰ったりと、かなりサービスはしている。
　思えば、そのほとんどが副長がらみであることのような気がするが。
　これ以上、一体何をサービスしろというのか。
　しかし次の瞬間、珊瑚は艦橋に持ち込んだ踏み台の上でニヤリと意味深な笑みを浮かべていた。
「いいのか？　そんなこと言って。そんなこと言われたらわたしも本気出しちゃうけど？」
「大いに結構！　是非本気を出してください！　そして、艦長の全てをさらけ出して我々に見せてください！」
　副長は鼻息荒く、珊瑚に迫る。
　あまりの勢いに、珊瑚は若干表情を引きつらせる。
「わかったわかった。そんなに期待してるなら、艦長としてみんなの期待に応えないとな。お昼を楽しみにしてるといい」
「聞いたか野郎ども！　お昼は艦長が大サービスしてくれるそうだ！！」
　伝声管を通して各所に伝えられた副長の言葉に、艦内各所から歓声が沸き上がる。
「いいんですか？　そんなこと言っちゃって」
「なーに。たまにはこういうこともしないとね。娯楽を与えるのも艦長の役目だから」
　心配そうに耳打ちしてくる航海長に、珊瑚は柔和な笑顔を浮かべた。

　そして時は流れてお昼時。
　いつも食事を行う部屋の一角に、副長は陣取っていた。
　片手にはカメラを持っている。
「さあ！　艦長の本気を見せていただきましょうか！」
　副長は鼻息荒く、珊瑚の登場を今かと待ちわびている。
　副長だけではない。
　いつもより多い人数のギャラリーが、カメラやタブレットを片手に珊瑚の登場を見守っていた。
「まったく。みんな物好きだな。そんなに慌てなくても逃げたりしないって」
　そう言って、珊瑚はゆっくりとした動作で姿を現した。
「ふおおおおおおおおおおっ！！」
『きゃーーーーーーーーーー！！』
　副長とギャラリーの黄色い歓声が艦内に響き渡り、あちらこちらからシャッター音が鳴り、フラッシュがたかれる。
　珊瑚は、、いつものマンボウマークがついたコートではなく、ハートのマークがついたエプロンを身につけていた。
　そして、その下には何も身につけておらず、素肌が見える。
　腰の辺りに回した大きなリボンが、要所要所を隠しており、ギャラリーの興奮度を上げた。
　手にはケチャップでハートが描かれたオムライスが乗った皿を持っている。



「さぁ。おいしく召し上がれ」
　そう言って、珊瑚は副長の前にオムライスを差し出す。
「ふああああああ！！」
　副長は興奮のあまり、奇声を上げながら赤い鮮血を鼻から噴出して、そのままテーブルに突っ伏す。
「本当、仕方ない奴だな」
　珊瑚は苦笑しながら、ギャラリーの歓声に手を振って応えるのであった。