ヤツが来る！！
　俺の第五感がそう告げていた。
　そいつは今までに幾度となく俺の前に現れ、そしてその度に悲劇をもたらしてくれた。
　だが今日は違う！俺はこの日の為にある対策を練っておいた。
　いつまでも同じような目にあうのはゴメンだ。
　今日は逆に一泡ふかせてやるぜ。
　そして……そいつはやってきた。
「パンパカパーン！おっめでとー！！レッベルアップしたんだね♪」
　そいつは毎度の如く、おめでたい騒がしい調子で俺の前に現れた。
　青い髪。
　透き通るような白い羽。
　そして、手のひらサイズの大きさ。
　自称レベルアップ妖精。
　俺のレベルが上がる度に俺の前に現れ、そしてパーティーの不協和音を生み出す元凶となっていた憎き相手だ。
　原因は、こいつの質問にあった。
　必ず決まって『どっちの娘が好きなの？』と尋ねてくる。
　俺がどっちか答えると、その答えた女の子とは少し仲がよくなるが、もう一方の女の子はそれ以上に不機嫌になって、そして決まって俺にやつあたりしてくる。
　おかげでこいつが現れた日は決まって生傷が絶えなかった。
　その苦しみを、お前にも味あわせてやるぜ。
「で、どっちの娘が好きなの？」
　やはりこいつは、いつもと同じように禁句とも言える質問をしてきた。
　待っていたぜこの瞬間を！
　俺はほくそえんだ。そしてわざとらしく恥ずかしそうに言った。
「俺が好きなのは……お前だ。レベルアップ妖精」
「えっ！？」
　一瞬流れる沈黙。凍りつく雰囲気。
「あ、あの、あの、えーっと、冗談はちょっと……」
「いいや冗談じゃないぜ。いつでも俺を見守り続けてくれる、お前のその健気な姿に俺は……」
「で、でも、私っ、小さいしさ、ほらそれにかわいくなくてやかましいし」
「そんなことはないぞ。とってもかわいくて、それに俺から見ればとってもおしとやかだ」
　我ながら歯が浮き出るようなセリフを言ってるのはわかっているが、ここで笑ってしまっては全ては水の泡だ。我慢しなければ。
「お前が好きだ、レベルアップ妖精」
　トドメの一撃。
「え、え、え、っと、そ、それじゃあ！！」
　顔をポッと赤らめて、やつは逃げるようにして俺の前から姿を消してしまった。
　ふっ……決まったな……
　俺は自己満足の余韻に浸っていた。
　いつも俺を苦しめていたバツだ。少しは苦しみやがれ。
　だが……
　俺の真後ろから殺気が２つ放たれているのに気がつくのに、そう時間はかからなかった。
「ケーイーン！！あなた、そーゆー趣味がある人だったのね！！」
「ケインさん……この前は私のことを『好き』と言っておきながら浮気するなんて……恨んでやる恨んでやる恨んでやる〜！！」
「ま、ま、まて！！アーシャ、サージュ！！こ、これはその、誤解だ！！」
「言訳無用！！」
「覚悟してください！！」
「ひえぇ〜〜！！」
　それは、今まで体験した中でも一番の修羅場であった。

「うーんいい天気だな」
　遺跡の国ルーインに立ち寄った俺は、ギルドで骨休めをしていた。
　あの惨劇から１週間がたったが、相変わらずアーシャとサージュは口を聞いてくれない。
　くそぅ……やっぱりあいつは疫病神だよ……
　安易な作戦を実行してしまったことを後悔すると共に、やはりレベルアップ妖精に関わるとロクな目にあわないということを再認識させられた。
「さて、そろそろ行かないとな」
　俺はパーティーを編成するため、部屋を出てカウンターに行った。
「おや？」
　俺はその場に、ふと見なれない少女がいることに気がつく。
　青い髪、気が強そうな顔立ち、どことなく騒がしそうな雰囲気……
　はて、どこかで見たことがあるような……
　俺はなんだか気になり、そのシルクのドレスを着た少女に声をかけてみることにした。
「あの、すみません。以前どこかでお会いしたことありませんでしたか？」
「えっ？あ〜〜！！」
　その少女は、俺の顔を見るなり突然飛びついてきた。
　何事だ！？と、途端に周囲の注目を集めてしまう。
「え、えっと……」
「やっと見つけた！！もう、探してもいないからひょっとして死んじゃったんじゃないかと思って心配しちゃった」
　聞き覚えのある声。俺の脳裏に、うっすらとその人物のシルエットが浮かび上がる。
「あ、あの、いきなりそれは……」
「あぅ、ゴメンゴメン。つい嬉しくなっちゃって」
　少女はエヘヘ、と笑うと、名残惜しそうに俺から離れた。
　俺は戸惑いを覚える。その困惑した表情を少女は見逃さなかった。
「もしかして……私のこと忘れちゃったの？」
「あ、ああ……すまない」
「んもう！！私よ私、レベルアップ妖精！！」
「あっ、そうか。レベルアップ妖精か。いやぁすまんすまん」
　俺はアハハ、と照れ笑いをした。
　そうかそうかレベルアップ妖精か。
　それでそれでどこかであったことがあると感じたんだ。
　なるほど、どうりで騒がしいわけだ……って、
「え〜〜〜〜！？」
　俺は自分の目を疑った。なんで、レベルアップ妖精がこんなところにいるんだ！？
「んもう。そんなおっきな声出さないでよね。耳に響くじゃない」
「だだだ、だっておまえ、なんでそんなにおっきいんだ！？」
「あれ？言ってなかったっけ？私、ある程度なら身体の大きさ変えることができるの」
「そ、それはいいとして、なんでこんなところにいるんだ！？」
「それはもちろん、ケインのお手伝いがしたかったから……」
　いうなりレベル妖精はポッと顔を赤らめてしまう。
　ちょっと待て。なんだそのポッていうのは？まさか……
　俺は一抹の不安を覚えるが、それは現実のものとなってしまった。
「私、男の人から告白されたの初めてで、だからどうしていいのかわからなかったけど……きめたの！！私、冒険者になってケインのお手伝いをするんだって」
「ちょ、ちょっと待てー！！」
　俺はその場から逃げ出そうとしたが、それよりも彼女が抱きついてきた方が早かった。
「ケイン、これからはず〜〜〜っと一緒だよ！！」
「か、勘弁してくれぇ〜！！」
　周りからはいちゃついてるように見える俺達に向かって、殺気を放った視線が複数存在することに、気がつくのにそう時間はかからなかった。