杞紗の誕生日

　静かに飛び立った白い天使は、大空を駆け巡りながら大地に羽を舞わせています。
　その幻想的な光景は、行き交う人々を幸せな気分にするのでした。
　こんにちわ。本田透です。
　すっかり寒くなりました。町の景色はきれいな雪化粧で白一色に染まっています。
　今日は杞紗さんのお誕生日ということで、由希君のお家でパーティーをすることになりました。
　もちろん、杞紗さんのご家族も招待しています。
　せっかくの杞紗さんの誕生日なのですから、ご家族だけで過ごせばいいと思うのですが……どうやら杞紗さんが私の料理を食べたいと言ったらしいのです。
　杞紗さんのお母さんから電話でこの話を聞かされた時には、私もビックリしました。
　ああ、私はなんて果報者なんでしょう！
　こうなってしまった以上、杞紗さんが満足してくれる、おいしいものを作らなくてはいけません。
　うおちゃんとはなちゃんに協力してもらって、たっぷり食材は買いこみました。
　お母さん、みててください。私きっと杞紗さんの喜ぶような、最高のニラ玉を作ってみせます！！
　でも……心配なことが１つあります。
　それは夾君のことです。
　夾君は私の料理を食べてくださるでしょうか……？
　ニラは夾君の嫌いな食べ物の１つのはずですし……
　でもきっと、楽羅さんが食べさせてくださいますよね。
　楽羅さんと夾君、とっても仲がいいですから。
　ああっ、もうこんな時間！
　もうすぐ杞紗さんが来てしまいます。
　急いで帰らないと！

『杞紗、誕生日おめでとー！！』
　パーンパーン！とクラッカーの音があちらこちらで鳴り響きます。
　楽しい宴会のはじまりです。
「みなさん、杞紗のためにありがとうございます」
　杞紗さんの横に座っているお母さんがなんだか涙ぐんでます。
　きっと、こんなに盛大に祝ってもらえるのが嬉しかったんですね。
「杞紗さん、ケーキですよ♪」
　私がケーキの上にたっている蝋燭に火を点けると、杞紗さんは立ちあがってトテトテトテと私のところにやってきて、膝の上にちょこんと乗っかるとふぅ〜っと力いっぱい息を吹きかけました。
　火はなかなか消えません。
　杞紗さんは何度も何度も息を吹きかけました。
　なんだかとってもかわいらしい姿です。
　そしてようやく、全部の蝋燭から火が消えました。
「大好きですぅ〜〜〜〜〜っ！！」
　私は思わず、杞紗さんの身体をぎゅ〜っと抱きしめてしまいました。
　杞紗さんの温もりが体中に伝わってきます。
　フランス人形のように、本当にかわいらしいです。
「お姉ちゃん……」
　杞紗さんはなんだか恥ずかしそうにしています。
　でも、もう少しこのままでいさせてくださいね。
　私も杞紗さんのこと、すごくすっごく大好きなんですから。
「はい、夾君。あ〜んして♪」
「けっ！んなもんいらねーよ！」
「ひっど〜い！！愛情をこめて作った私の手料理が食べられないっていうのぉ！？」
「当たり前だ！！」
「んだとぉ！？食えっつってんだよコラ！！」
「うぎゃああああああああああああ！！」
　向かい側では楽羅さんが夾君にニラ玉を食べさせてあげています。
　夾君、大丈夫でしょうか？
「まったく……はた迷惑なヤツだ。黙って食えないのか？」
「あんまり人の家、壊さないでね」
　由希君も紫呉さんも微笑ましくその光景を見守ってらっしゃってます。
　夾君と楽羅さんは将来を誓い合った仲ですから、結婚後の夫婦生活を想像なさってるのかもしれませんね。
「それじゃあ杞紗さん、あ〜んしてください」
　私はニラ玉をお皿に取ると、杞紗さんのお口へと運んであげました。
「どうでしょう？」
「おいしい」
　杞紗さんは嬉しそうに微笑みながら私の作ったニラ玉をおいしそうに食べてくださいます。
「そうですか。よかったぁ。どんどん食べてくださいね」
　私は嬉しくなって、どんどん杞紗さんにニラ玉を食べさせてあげました。
　まるで妹が出来たようです。
　お母さん、みてますか？やっぱり私は果報者です。
　ジーンと胸に込み上げてくるものがあります。
　こんなにも幸せでいいのでしょうか？
「お姉ちゃん……」
「なんですか？」
　杞紗さんが私の顔をじっと見つめます。
　なんだかドキドキします。
「私、お姉ちゃんのこと大好き」
「…………私もですぅ〜〜〜〜〜〜！！」
　私はもう一度杞紗さんの体をぎゅ〜〜〜っと抱きしめました。
　楽しい宴はまだ始まったばかりです。