夏期休暇も間近に迫ったある夏の日の放課後。
　わたしは艦長からお願いされていた、宇田さんが撮影した晴風クラスの日常の写真を若狭さん達に届けるため、とある場所に向かっていた。
　そう。雀荘である。
　西崎さんの話だと、どうも最近、機関科の４人組はこの時間雀荘に出入りしているらしい。
　ちなみに、同じビルの１階には伊良子さんと杵崎姉妹がよくお菓子作りの勉強に来ていて、時々立石さんと一緒に試食させて貰ってると、西崎さんが話していた。
　どうせならわたしも、雀荘ではなく１階の和菓子屋の方に行きたい。
　第一、わたしは麻雀にあまりいい思い出がない。
　あの晴風での、ブルース君の写真をネタに脅され、半ば強制的に打たされた麻雀。
　ましてや行き先は雀荘だ。
　麻雀を打たされる未来しか思い浮かばない。
　また同じようなことされるのではないかと、どうしても身構えてしまう。
　でも、艦長からお願いされてしまった手前、行かないって言う選択肢はとれないんだよなぁ……
「はぁ……ツイてない……」
　５階建てのビルに着いたわたしは、エレベーターのボタンを押し、雀荘の入っている階へと向かう。
　そして目的の階に着いたエレベーターを降り、雀荘へと入ると――
「いったああああああああっ！」
　駿河さんの悲鳴が聞こえてきた。
　見ると、駿河さんが額を抑えて涙目になっている。
　どうやら広田さんにデコピンされたらしい。
　また負けたのか……
　二人の状況を見て、一瞬で状況を理解する。
　駿河さんがいつものように麻雀に負けて、罰ゲームが執行された。
　間違いない。
　やはり、ここに留まるのは危険だ。
「あら、宗谷さんじゃない。どうしたの？」
　わたしの姿を確認した伊勢さんが声をかけてくる。
　ちょうどいい。さっさと頼まれものを渡して、ここを立ち去ろう。
「ああ、実は岬さんから頼まれものをしていて。宇田さんが撮影した写真を渡して欲しいって」
　わたしはバッグから写真の入った封筒を取り出し、伊勢さんに渡す。
　よし、任務完了！
　後は速やかに撤退を……
「ところで宗谷さん。折角来たんだし、一局打っていかない？」
　そんなわたしの目論見を阻止するかのように、若狭さんが声をかけてくる。
「いや、わたしは遠慮しとくよ。他に用があるから……」
　わたしはやんわりと否定し、そのまま店を出ようと回れ右をし……
「宗谷さーーーん！！」
　突然、駿河さんが奇声を上げながらわたしの背後から抱きついてきた。
「わっ！？　な、なんだ！？」
　予期せぬ行動に、思わず戸惑いの声をあげてしまう。
「宗谷さん！　わたしに麻雀の特訓をして！　わたし強くなりたいよぉ！」
　一方駿河さんはとんでもないことを口にする。
「はぁ！？　待て待て！　わたしは麻雀初心者だ！　そんなことできるわけないだろう！」
　わたしは即座に否定する。
　大体、ルールもロクに知らないわたしが麻雀のコーチなんかできるわけない！
　何を考えているんだ！？
　っていうか、他の三人頼ればいいじゃないか！
「それ、いい考えかも」
　しかし、若狭さんが駿河さんの考えに賛同する。
「確かに。ルナには副長殿の頭脳明晰な分析力とか洞察力とか、身につけて貰いたいものね」
「そうと決まれば、まずは宗谷さんの実力を確かめるためにも、打ってみないとね」
　広田さんと伊勢さんもとんでもないことを言い出す。
「待て待て！　わたしは打たないぞ！　待てったらー！」
　わたしがどれだけ否定しようとも、どんどん対局のセッティングが進んでいく。
　どうやら、わたしはこの運命から逃れられないらしい。
　ああ……不幸だ……
　そしてわたしは。なし崩し的に麻雀を打つ羽目になってしまったのであった……