音楽室を出たわたしと駿河さんは、そのまま体育館へと向かっていた。
　岬さんに晴風クラスで麻雀が強そうな人を聞いたところ、西崎さんの名前が挙がったからだ。
　将棋と麻雀。種類は違うが、卓上競技ということでは共通している。
　ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない。
　その西崎さんは体育館にいるというので、これはもう行くしかない、というわけだ。
「今回も楽しかったね！　宗谷さん！」
　駿河さんが心底楽しそうに話す。
「…………」
　わたしはその問いかけに、疲れ切った苦笑いしか返すことができなかった。
　ああ、とっても疲れたさ。あんなに練習させられるとは思わなかった！
　っていうか、どうしてわたしは駿河さんと一緒になって後悔ラップを歌わされていたんだ！？
　麻雀の練習そっちのけで！
　次こそはそうならないことを祈りたい。
　次はきっと大丈夫……！
　体育館前につき、心を強く持つ。
　今度は変なことに巻き込まれませんように……！
　そう思いながら体育館のドアを開ける。
　すると――
　何やら砲雷科のメンバーが全員、ジャージ姿で集合しており、日置さんと姫路さん以外は巨大なシートの上で様々なポーズをとっている。
　日置さんと姫路さんはルーレットのようなものの前にいる。
「おー、ツイスターゲームだね」
　駿河さんが興味深そうにその様子を眺める。
　ツイスターゲームとは、確か４色の色のついたマットに対し、両手足のどの部分でどの色を触れるかが書かれたルーレットを指示者が回して指示を出し、指示された者が体勢を崩したら負けになるゲームのはずだ。
「りっちゃん、右手で黄色」
「はいー」
　姫路さんの指示に従い、松永さんが黄色に触れる。
　まだまだ体勢には余裕がありそうだ。
　一方……既に陥落寸前の人もいるんだが……
「みっちん！　左手を赤！　バキュンとやっちゃって！」
「お、おっけー……」
　武田さんが左手を賢明に伸ばす。
　その下に、武田さんを支えるようにブリッジポーズでいる立石さん。
　っていうか、武田さんの胸を押しつけられてずいぶん苦しそうなんだが……
「きゃあ！」
「うぃぃぃ！」
　あ、崩れた。
　無理な体勢がたたり、武田さんと立石さんは、あえなくマットへと轟沈する。
「これ、どっちが勝ちになるの？」
「うーん、引きわけ？」
　西崎さんの質問に、小笠原さんが答える。
　まぁ、わたし的には立石さんの方が早くマットに着いたように見えたが。
「それじゃあ、またチームを変えて……あっ！　宗谷さん！」
　ここでようやく、姫路さんがわたし達の存在に気がつく。
「もう宗谷さん！　何処いってたのさ！　探したんだよ！？」
　そして、西崎さんに何故か怒られる。
「いやぁすまない。ちょっと頼まれ事があって。それより、何やってるんだ？」
「これ？　砲雷科のレクリエーションかな？」
　西崎さんがあっけらかんと答える。
　いや、わたしも砲雷科だが、そんな話聞いてないぞ！？
「宗谷さんにも連絡しようと思ったんだけど、早々にどこかに行っちゃうんだもん。電話もつながらないしさ」
「あ、そういえば……」
　言われて、過去の記憶を思い出す。
　確か料理の邪魔になるから電源切っていたんだよな。
　ツイてない……
「まぁ、それはいいとして。どうしたの？　駿河さんと一緒に来たりして」
「あ、そうだった。実は西崎さんに用があって」
「へっ？　あたし？」
　西崎さんの質問に、わたしはことのあらましを説明する。
　航海科でかなえられなかった駿河さんの麻雀特訓について、相談してみる。
　西崎さんはウンウンと話を聞いていたが、すぐに渋い表情を作った。
「ごめん。ちょっとあたしじゃ力になれないかも。将棋ならともかく、麻雀はちょっと、ね」
「そうか……」
　やっぱりダメだったかと、大きくため息をつく。
　将棋と麻雀、そりゃ別物だよなぁ……
「それでしたら、私、心当たりがありますわ」
　すると、今まで静かにしていた万里小路さんが会話に加わってきた。
「お父様の知り合いの方に、麻雀がとってもお強い人がいたはずですわ。その方に頼んでみましょうか？」
「本当！？　万里小路さん、よろしくお願いします！」
「はい。承りましたわ」
「万里小路さん！　ありがとう！
　駿河さんは万里小路さんの手を握り、上下にブンブンと激しく振る。
「まぁ、なんだかよくわからないけど、決まったようでよかったよ。それじゃあそういうことで、宗谷さんと駿河さんは強制参加で」
「「ええっ！？」」
　突然の西崎さんからの通告に、わたし達は驚きの声をあげる。
「つべこべ言わない！　ほら、ダッシュ！」
「「はい！」」
　西崎さんに言われるまま、わたし達はジャージを取りに教室へと戻る。
　そしてジャージとスパッツに着替えさせられたわたしと駿河さんは、強制的にツイスターゲームに参加させられるのであった。
　もう……動けない……