時が流れて休日。
　わたしと駿河さんは、朝からいつもの雀荘に来ていた。
「いよいよ特訓開始だね宗谷さん！　どんな人が来るんだろう？」
「ああ……そうだな……」
　心躍らせる駿河さんとは対照的に、わたしの心は重く沈んでいく。
　っていうか、何故わたしは休みの日に、こんなところにいるんだろう……
　確かに本人から麻雀の特訓は頼まれたんだが、主計科、航海科、砲雷科からそれぞれ人を紹介して貰ったんだから、もうわたしの役目は終わったんじゃないのか？
　それが、朝、昼時、夕方にそれぞれ指南役が来ると言うんだから、ツイてない。
　今日は一日麻雀漬け……どうしてこうなった……
　そんなことを思っていると、雀荘のドアが開いた。
「おっはよーございまーす！」
　そして元気な挨拶と共に、少女の集団が入ってくる。
「！？」
　わたしはその集団を思わず凝視する。
　一人は勝田さんみたいなイケイケ系な感じの、制服を着た少女。
　一人はマフラーを身につけやたらと厚着をした少女。っていうかこの季節に厚着！？
　一人は伊勢さんよりも胸が大きい、制服を着た少女。
　一人はショートボブのおとなしそうな、制服を着た少女。
　一人はポニーテールにジャージ姿の少女。っていうか何故にジャージ？　和住さんの仲間か！？
　そして最後の一人が、ぱっつんっぽい髪型の引率役らしき大人の女性。
　なんなんだこの集団……！？
「おはようございます！　杵崎さんの紹介でやってきました、阿知賀女子麻雀部です！　本日はよろしくお願いします！」
「「「「「よろしくお願いします！」」」」」
　ジャージの少女に続いて他の５人が頭を下げる。
　阿知賀……奈良か？
　って、そうじゃない！
「あ、ああ。わたしは横須賀女子海洋学校砲雷科１年、晴風クラスの宗谷ましろだ」
「わたしは横須賀女子海洋学校機関科１年、晴風クラスの駿河留奈だよ」
「「今日はよろしくお願いします」」
　わたしと駿河さんは、頭を下げて挨拶を返す。
　どうやら彼女達が主計科からの刺客、もとい麻雀をコーチしてくれる人たちらしい。
「オッケー。ビシビシ鍛えてあげるから、覚悟してね。あ。私は赤土春江。阿知賀女子で教師やってる、この子達の引率役よ」
　と、ぱっつんっぽい髪型の女性。
「私は鷺森灼。麻雀部の部長をやっている」
　と、ショートボブの少女。
「私は松実玄。よろしくね」
　と、胸の大きな少女。
「私は松実宥。よろしく」
　と、厚着の少女。
「あたしは新子憧。こう見えてもあたし達、全国大会に出場してるチームだから、強いわよ？」
　と、イケイケ少女。
「私は高鴨穏乃。私達も強いけど、先生も実業団の選手だったこともあるから、とっても強いよ？」
　と、ジャージの少女。
「す、凄いよ宗谷さん！　全国大会出場チームの人に、元実業団の人だって！」
　駿河さんが目を輝かせながら、阿知賀の人たちを見る。
　杵崎姉妹……やり過ぎじゃないか！？
　鏑木さんに頼ろうとしたわたしも人のこといえないが、これは流石に……
　わたしはドン引きするが、そんなことはお構いないなしに状況は進んでいく。
「それじゃあ、時間も３時間しかないことだし、早速始めましょうか！　２卓使えば、４人ずつ打てるわね。相手は都度シャッフルで」
「えっ！？」
　その言葉に、思わず驚きの声を上げてしまう。
「わたしも打つんですか……？」
「当然じゃない」
　何当たり前のこと聞いてるの？という感じで赤土さんはわたしを見る。
「宗谷さん！　頑張ろうね！」
　一方、やる気全開の駿河さん。
　この状況で、どうして断れようか。
「ははは……よろしくお願いします……」
　そしてわたしは強制的にメンバーに組み込まれて麻雀特訓を駿河さんと一緒にする羽目になった。



　そして約３時間経過後……
　わたしと駿河さんは、麻雀卓に突っ伏していた。
　っていうか、なんなんだこの人たち！？
　強すぎじゃないか！？
　これが全国レベル……
　わたしは対局中のことを思い出す。
　初心者のわたし達がどうやったってかなうわけないじゃないか。
　ツモドラ１２とか。
　ピンズのチンイツで倍満とか。
　早上がりの連発とか。
　全く上がれない手牌しか来ないとか。
　正確無比な打牌をされるとか。
　どうやってこんな人達からあがれと！？
「いやぁ、久々に大差つけられたかも」
　新子さんは清々しいまでのやりきった表情を浮かべている。
「どうしたら、そんなに強くなれるの？」
　顔をむくりと上げた駿河さんが、新子さんを見る。
「うーん……例えばしずのように、ジャージを着てみるとか？」
「ジャージ？」
「そ。この娘のように、裸ジャージで野生と一体化するとか、ね」
「ちょ、ちょっと憧！　私そんなことしてないから！」
　新子さんの発言を高鴨さんが真っ赤になって否定する。
「そっか……だからヒメちゃん、いつもジャージにスパッツなんだ……」
　一方、駿河さんは駿河さんで何やら激しく勘違いしていそうなことをブツブツと呟く。
　そんなこんなで、主計科からの紹介メンバーとの麻雀特訓は無事終わったのであった