龍門渕高校麻雀部との激闘を終えてから１時間後。
　わたしと駿河さんはぐったりと椅子の背もたれにもたれかかっていた。
　正直、阿知賀女子よりも酷い麻雀を体験させられるとは思わなかった……
　でもまだ残ってるんだよなぁ。
　最後は砲雷科からの刺客か……
　そんなことを思っていると、雀荘のドアが開いた。
　どうやらご到着のようだ。
　さてさて、次は何処の高校の生徒が……
「邪魔するぜ」
「「！？」」
　その入ってきた人物を見て、わたしと駿河さんは目を剥く。
　一人はパンチパーマの年をとった強面のおっさん。
　一人はマグロ漁船に乗っていそうな渋めのおっさん。
　そして最後の一人は、ダークスーツを着用した切れ目で冷徹な雰囲気を漂わせたおっさん。
　どう見てもアレ系の人達じゃないか！？
　まさか、わたし達の相手ってこの人達じゃないよな！？　冗談じゃないぞ！？
　しかし、わたしの願いもむなしく、その三人組がわたし達の元へとやってくる。
「あんたらが、横須賀女子海洋学校の宗谷ましろさん、駿河留奈さんかい？」
「は、はい」
「そ、そうです」
　パンチパーマのおっさんの質問に、わたし達は立ち上がり答える。
「そうかい。俺は黒流会の八角ってもんだ。今日は万里小路家からの依頼であんた達を鍛えてくれって頼まれたから、よろしくな。で、こっちの二人が……」
「黒流会の山田だ」
「フッ。三國だ」
　パンチパーマのおっさんの後に渋めのおっさんと切れ目のおっさんが自己紹介する。
「ちなみに三國さんは代打ちナンバーワンの実力で、『氷の貴公子』って二つ名を持っているんだぜ。あんたら、運がいいな」
「きょ、今日はよろしくお願いします！
「よろしくお願いします！」
　わたしと駿河さんは八角さんの言葉に、深々と頭を下げる。
　万里小路さん、なんて人を砲雷科の刺客として送り込んでくるんだ！
　これじゃあ納沙さんが大喜び、じゃなくて前の２組の方がマシだったぞ！
「それじゃあ、駿河の嬢ちゃんから、軽く揉んでやるとするか」
「よ、よろしくお願いします！」
　わたしは慌てて、椅子から離れる。
　駿河さんが涙目でこっちを見ているが、気にしない！
　わたしに相手は無理だ！
　それに、元々駿河さんのための特訓だしな！　うん！
　わたしは駿河さんの後ろにいるとしよう！
「それじゃあ、始めるとするか」
「お、お手柔らかにお願いします！」
「威勢のいいお嬢さんだ」
「フッ」
　そして駿河さん達の麻雀が始まった。



　場が進んで東３局。駿河さんはうなり声を上げていた。
「うーん……どうしてアガれないんだろう……」
（そりゃそうだろう）
「そりゃそうだろう」
　わたしの心の声と山田さんの声が重なる。
「お嬢さん、牌が足りてないぜ」
「えっ！？」
　駿河さんは慌てた様子で自分の手牌を数える。
「いち、に、さん……じゅう、じゅういち……あれ！？　一枚足りない！」
「フッ」
「フッ」
「フッ」
　山田さん、八角さん、三國さんの３人が静かに笑う。
　駿河さんは東１局でいきなり多牌を炸裂させたと思ったら、今度は少牌か……
　この癖を直さない限り、麻雀は強くなれないような……
「お嬢さん、その悪い癖は直した方がいいな」
　山田さんが同じことを指摘する。
「どうだい？　チョンボ１回毎に着ている物を１枚脱ぐってのは？」
「ええっ！？」
　山田さんのとんでもない提案に、駿河さんは立ち上がる。
「脱ぎたくなければチョンボしなければいいのさ」
「痛みを知ることは、それだけ強くなれるってことだ」
　八角さんと三國さんも静かに言う。
「うううっ……」
　力なく座り込む駿河さん。
　この人達……ヤバすぎる……！



　さらに場が進んで南１局。
　駿河さんの手牌に奇跡が起こっていた。
（東東東南南南西西北北中中中って……まさか役満！？）
　わたしはゴクリと唾を飲む。
　駿河さんの表情もニヤけまくっている。
　まぁ、気持ちはわかるんだが……
　そして駿河さんが引いた牌は……白！　惜しい！
　駿河さんは少し残念そうな表情を作って、場に白を切る。
「たかが役満張ったくらいで最大級の暴牌か」
「えっ？」
　駿河さんが対面に座っている三國さんを見る。
　三國さんは静かに手牌を倒した。
「１８０００」
「ウソ……」
　駿河さんがこれ以上ないくらい目を見開いている。
　これが代打ちナンバー１の実力……凄すぎる……
　っていうか、駿河さんの手牌お見通しだったんだな……
　わたしも魅入られずにはいられなかった。



　そして最終南４局。
　またしても駿河さんに絶好の手牌が入っていた。
（三萬四萬五萬六萬七萬八萬八萬三筒四筒五筒三索四索五索……三面待ちか。しかも、萬子は場にあまり出てないから、流石にこれはアガれるんじゃないか？）
　わたしがそんなことを思っていると、三國さんが牌を切った時に、場に異変が起きた。
　キーーーーーン
　九萬が打牌され、場がまるで凍ったように静まる。
（な、なんだ！？）
　凍えたような音が聞こえたが、気のせいか？
　駿河さんもキョロキョロと周囲を見回すが、これといって変化はない。
　それから山田さん、駿河さん、八角さんとツモ牌を打牌し、三國さんの番に。
　三國さんはツモ牌を手牌に組み込むと、捨牌を場に出した。
　キーーーーーン
　四萬が打牌され、またもや場が凍った雰囲気に覆われる。
（こんな危険な牌をためらいなく捨てるだと！？）
　駿河さんも唖然とした様子でその捨牌を見る。
　そして山田さん、駿河さん、八角さんとツモ牌を打牌し、三國さんがツモ牌を引くと……
「ツモ。３０００、６０００」
　ツモ牌と手牌を静かに倒牌した。
「流石三國さん。氷の打牌は健在ですね」
「まだまだ俺達は、その領域にたどり着けねえってことよ」
　山田さんと八角さんは感嘆のため息を漏らし。
「氷の打牌……か、かっこいい……」
　駿河さんは感動していた。
　っていうか駿河さん、断然最下位なんだけど……
　まぁ、これだけの実力者相手なら仕方ないかな。
　しかも相手は大人だし。
「それじゃあ、次はそっちの嬢ちゃんの番だな」
「へっ？」
　山田さんに突然話を振られて、思わず間抜けな声を上げてしまう。
「そうだな。平等に相手にしてやらないとな」
「フッ……失望させてくれるなよ」
「シロちゃん、頑張ってね！」
　八角さん、三國さん、駿河さんからも後押しされてしまう。
　っていうか、何故にシロちゃん呼び！？
　どうやら、わたしには対局する以外の道は残されていないようだ。
　ツイてない……
　そして、砲雷科からの紹介メンバーとの麻雀特訓は、夜遅くまで行われるのであった。