主計科、航海科、砲雷科からの刺客との血の滲むような麻雀特訓を終えた翌日の休み。
　わたしは機関科メンバーと共に、いつもの雀荘へと来ていた。
　そう。機関科メンバー総出である。
　伊勢さん、若狭さん、広田さんは常連だからいいとして。
　柳原さん、黒木さん、和住さん、青木さんが雀荘にいるのは珍しいのではないだろうか？
　そして主役であるはずの駿河さんは、ここにはいない。
「ルナ遅いわね」
「逃げちゃったんじゃない？」
「それならば、副長殿に代わりに入って貰うしかありませんね」
　伊勢さん、若狭さん、広田さんは既に雀卓に座って、対局開始を待ちわびている。
「あなた達、ちょっとうるさいわよ！　ごめんなさい宗谷さん。本当、ルナの面倒を押しつけるような真似させちゃって。今度私から、厳しく言っておくから」
　そんな彼女達をどやしつけ、何故かわたしの手を取って謝罪の言葉を述べる黒木さん。
「なんでぃなんでぃ！どいつもこいつもピーチクパーチク！」
　そして何故か急に不機嫌になる柳原さん。
「ありゃー。マロンちゃんご機嫌ナナメだねー」
「仕方ないっすよ。あれだけクロちゃんとシロちゃんの熱々な仲を見せつけられちゃ。今度のコミマはクロシロ本で決まりっすね」
　そして、何かを囁き合ってる和住さんと青木さん。
　集まった名目は、駿河さんがどの程度実力を上げたのかを確認するため、という物だ。
　当初は私と駿河さんに、伊勢さんと若狭さんと広田さんだけのはずだったのが、和住さんと青木さん経由で黒木さんに話が漏れ、柳原さんもついてきたらしい。
　和住さんはジャージにスパッツ姿で、それ以外の人達はいつもの制服などの服装だ。
　しかし、駿河さんどうしたんだろう。昨日あんなに張り切っていたのに。
　そんなことを考えていると、不意に、雀荘のドアがゆっくりと開いた。
「打てますか？」
　そしてよくわからないことを言いながら、駿河さんが姿を現す。
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
　そんな駿河さんの姿に、みんな無言になる。
「ま、まぁ、ここはおでん屋じゃないから、麻雀打つことは可能ね」
　辛うじて、広田さんが突っ込みを入れた。
「そう」
　駿河さんはすました表情で、広田さん達が座っている雀卓まで行くと、そのまま空いてる席に腰掛けた。
「ルナ、あなたその格好……」
　伊勢さんが駿河さんの服装をマジマジと見つめる。
「ふふん。これは昨日実施した麻雀の特訓の成果だよ！」
　駿河さんは胸を張って答える。
　そう。駿河さんはジャージにスパッツ姿だったのだ。
「特訓の成果ねぇ……」
　伊勢さんが呆れたようにため息をつく。
「ふふん。笑っていられるのも今のうちだよ。この裸にジャージという究極の戦闘スタイルの前に、みんなひれ伏すことになるんだからね！」
「えっ！？　マジ！？」
　駿河さんのとんでもない発言に、若狭さんが慌てて和住さんを見る。
「ヒメちゃん、まさか……」
「してないしてない！　わたし、ちゃんと下着とか身につけてるから！」
　青木さんにも疑惑の眼差しを向けられた和住さんは、慌てて両手でバツマークを作り、首を左右に振る。
「ルナ……あなた一体どんな特訓したのよ……」
　広田さんがジト目で駿河さんを見る。
「えっとねぇ、シロちゃんと一緒に主計科のみんなとお料理したり、航海科のみんなと後悔ラップ歌ったり、砲雷科のみんなとツイスターゲームやって、シロちゃんに押し倒されたり……」
「その何処が麻雀の特訓なのよ」
　広田さんが呆れたようにため息をつくが、それを上回る反応を示した人物がいた。
「はぁ！？　シロちゃんですって！？」
　黒木さんはわたしの手を離すと、激高しながら駿河さんに近寄り、彼女の両肩を掴む。
「ちょっとルナ！　何短期間で宗谷さんとそんなに親密になってるのよ！　麻雀の特訓してたんじゃないの！？」
「ま、麻雀の特訓もしてたよ！　昨日、阿知賀女子麻雀部の人と、龍門渕高校麻雀部の人達と、それから黒流会の人達と、シロちゃんと一緒に一日中」
「宗谷さんと一緒に一日中麻雀を打ってたですって？　どうして私を呼ばないのよ！」
　黒木さんは激しく駿河さんを揺さぶる。
「黒木さん、そのくらいにしないと！」
「ルナちゃん倒れるっすよ！」
　慌てて和住さんと青木さんが止めに入る。
「もぅ、今度はちゃんと私も呼ぶのよ！」
　黒木さんはやや落ち着きを取り戻し、駿河さんから手を放す。
「クロちゃんはマロンと遊ぶんでぃ！」
　しかし今度は拗ねた表情の柳原さんに抱きつかれて、黒木さんは困惑の表情を浮かべる。
　なんだこのカオス空間は？
　わたしはため息をつくしかなかった。