（頑張れ、駿河さん）
わたしは心の中で駿河さんを応援する。
いろいろあったけど、一緒に特訓した仲だもんな。
しかし、いくら特訓したからと言っても急に強くなるわけでもなく。
東１局は若狭さん、東２局は広田さん、東３局は伊勢さんがそれぞれアガった。
そして東４局。
駿河さんの手牌に、ものすごい手配が入った。
二筒二筒二筒二筒三筒三筒三筒三筒四筒四筒四筒五筒六筒という、これ以上ないくらい絶好の手牌だ。
他の三人もその気配を感じているらしく、早々にベタ降りするような捨牌を見せる。
そして。
駿河さんのツモって来た牌は、四筒であった。
（やっと駿河さんも一矢報いることができたな）
わたしがホッと胸をなで下ろしていると。
「カン！」
全く予期せぬ声が、駿河さんから発せられた。
（はぁ！？ カン！？）
わたしは喉元まででかかった声を寸前のところで飲み込み、駿河さんの手牌を見る。
二筒がカンをされた状態になり、嶺上牌から牌をツモってくる。
その牌は、五筒であった。
（ツモだ！ ツモって言うんだ！）
「カン！」
（ハァ！？）
わたしの願いもむなしく、駿河さんは再度「カン」の発声をする。
三筒がカンをされた状態になり、嶺上牌からツモって来た牌は五筒であった。
（アガってる！ アガってるから！ ツモって言うんだ！）
「カン！」
（何やってるんだー！！）
四筒がカンをされた状態になり、嶺上牌から牌をツモって来る。
（まさか、ここで嶺上開花狙ってるのか！？ いや、それならさっきできただろう！？）
わたしも、まるで自分のことのようにそのツモ牌を見守る。
「あっ……」
駿河さんが小さく声を上げる。
果たしてその牌は、八筒であった。惜しい！
駿河さんはその八筒を打牌する。
「ロン。タンヤオのみ」
しかし、無情にも広田さんから「ロン」の声がかかる。
「あああー！」
奇声を上げながら椅子の背もたれに寄りかかる駿河さん。まるで魂が抜け落ちたようだ。
「ルナ、あんたどんな手を作ってたのよ」
若狭さんが駿河さんの手牌をオープンし、「うわぁ……」と絶句する。
「ルナ、あなたどれだけ欲張りなのよ。四槓子でも狙ってたの？」
「えっ？」
伊勢さんの言葉に、意識を取り戻す駿河さん。
「『えっ？』じゃないわよ。四筒ツモった時点でアガれるじゃない。その後カンしたけど、その時でも嶺上開花成立してるし」
「ウソっ！？」
駿河さんは慌てて手牌を見返す。
ひょっとして手牌が凄すぎて見えてなかったんじゃ……
「あああああ！ バカバカバカわたしのバカー！！」
千載一遇の好機を逃した駿河さんは絶叫して、麻雀卓に突っ伏した。
それから場は進み。
オーラスの南４局を迎えた。
ここまで１度もアガっていないのは駿河さんだけ。
しかも手牌が、一筒三筒四筒四筒七筒八筒五索五索七索西西北北と、かなり悪い。
伊勢さんと広田さんも、捨牌からあまりよくなさそう。
ただ一人、若狭さんのみ、かなりいい手牌が入っているみたいだ。
萬子が捨牌にないところを見ると、染め手なのか？
そして。
その萬子である五萬を、駿河さんが掴んでしまった。
萬子は捨てるのに危険すぎる。
しかし、駿河さんはニヤリと笑った。
（まさか！）
わたしの脳裏に、あの時の光景がよみがえる。
そして駿河さんはツモ牌である五萬を掴んだまま……
「キーーーーーーーーン！！」
奇声を上げながら打牌する。
「…………」
そしてドヤ顔で三人を見回した。
「えっと……それロン。チンイツ、タンヤオで１２０００」
しかし、若狭さんが困惑した表情で倒牌すると、一転して表情を青ざめさせる。
「なんでーーーーー！？」
「いや、何でって言われても……超危険牌でしょ。それ」
「そうよねぇ。流石に私もこの局面でそれは切れないわ」
「ルナ、あなた特訓してから弱くなったんじゃない？」
若狭さんの他に、伊勢さん、広田さんからも散々なことを言われる。
まぁ、私も同感なんだが……
「それは聞き捨てなりませんね！」
わたしが共感を覚えた次の瞬間、聞き慣れた声がしたかと思うと、雀荘のドアが開かれ、見慣れた少女達が姿を現した。
それは主計科からの刺客、阿知賀女子麻雀部のメンバーであった。
「衣もいるぞ！」
そして次に姿を現したのは、航海科からの刺客、龍門渕高校麻雀部。
「フッ。俺達もいるぜ」
最後に姿を現したのは、砲雷科からの刺客、黒流会の皆さん。
「情けないですよ駿河さん！たった一度負けたくらいで弱音を吐くなんて！ 特訓です！」
「衣も遊ぶぞ！」
「フッ。付き合うぜ」
高鴨さん、天江さん、三國さんに駿河さんは強制連行されて違う卓へ移動する。
おかげで一人空いた状態になってしまった。
「……それじゃあ、宗谷さん打とうか？」
「そうよね。宗谷さんなら真面目に特訓して強くなってるかもしれないし」
「胸をお借りしますよ、副長殿」
そう言って若狭さん、伊勢さん、広田さんはニヤリと笑う。
「ズルイわ！ 私も宗谷さんと麻雀打ちたい！」
「ダメー！ クロちゃんはマロンと遊ぶのー！」
そんな状況に割り込もうとする黒木さんと柳原さん。
「なんか凄いカオス……」
「そうっすねー。絵に残したいくらいっす」
それをのほほんと見守る和住さんと青木さん。
「もう特訓はこりごりだよー！」
そんなカオス状況の中で、駿河さんの悲痛な叫びが雀荘に響き渡るのであった。
