トントントントン

　小刻みよい包丁の音が家庭科室の中に響き渡る。
　２人が作っている料理はカレー。
　ジャガイモ、ニンジン、たまねぎは皮をむかれて適度な大きさに切られ、ココナッツミルクの入った缶の封が切られている。
　料理を作ることが苦痛でしかなかったかりんにとって、今までとは違った料理を作ることに対しての嬉しさや楽しさと言った感情が内面からあふれ出ていた。
「そう言えば……」
　具材を水のはった寸胴鍋の中に入れたユメが、あたりをキョロキョロと見まわしながらかりんに尋ねる。
「エリスさんの姿が先程から見えないんだけど……かりんちゃん、どこさ行ったか知ってます？」
「さぁ……」
　ユメと同じように、後はカレールーとココナッツミルクを入れればもう大丈夫と言うところまできたかりんが、首を傾げる。
「そのうち戻ってくるんじゃないでしょうか？あ、ほら……」
　まるでかりんの言葉に反応するかのように、家庭科室の扉が開いた。
「あっ……」
　そしてかりんはそのまま岩石のように硬直する。
　入ってきたのは、エリスの他に、よく見慣れた男子生徒の姿があった。
　そう、噂の牧村功司、その人である。
「いやぁスマンスマン。ヤボ用でちょっと席を外させてもらったゾ」
　エリスはニヤニヤしながらかりんを見る。
　その表情から野暮用ではなく策略であることは明白であった。
「えっと……俺、ここにいてもいいのか？」
　場違いな雰囲気だと言わんばかりに、功司は困ったようにエリスとかりんを交互に見る。
「いてくださって大丈夫ですよ」
　その功司の疑問に答えたのが、ユメであった。
「え、えっと……君は……？」
　困惑の表情を浮かべる功司に、ユメは自己紹介を始める。
「初めまして。わたす、魔法遣いの菊池ユメって言います。今日はかりんちゃんの料理の特訓のお手伝いにやってきました」
「へぇ。特訓。かりんは勉強熱心なんだな。あ、俺牧村功司っていうんだけど。よろしく」
「こちらこそ。ところで牧村さん、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど」
　ユメはチラリと横目でかりんを見ると優しい笑顔のまま牧村を見た。
「料理をしている女の子って、どう思いますか？」
「！！」
　いきなり直球な質問に、かりんはユメを見た。
「え、ど、どうって言われても……家庭的でいいんじゃないかなぁ、と……」
　功司もどう答えていいのかわからず、思いついたことを口にする。
「ホーウ、家庭的でイイのか……ヨカッタナ」
　エリスも腕組みしながらニヤついた表情でかりんを見た。
「…………」
　かりんは真っ赤になりながら手近にあった醤油やら味噌やら砂糖やらソースやらを鍋の中に放り込む。
「あ、か、かりんちゃん！？」
「えっ……あっ！！」
　かりんは慌てて手を引っ込めるが、時既に遅しで、投入した調味料は全て溶けこんでしまっていた。
「…………」
　かりんは無言になり、表情に落胆の色を浮かべる。
「アーア、オマエが変なコト言うからだゾ。バツとしてかりんのカレーを食え」
　エリスは責任をとれと言わんばかりに、責任の矛先を功司に向けた。