「ただいま戻りましたー」
　ユメが下北沢の小山田魔法事務所に戻ってきたときには、既に午後の８時を回っていた。
　ユメの帰りが遅いことを心配していた小山田が暖かく出迎えてくれる。
「遅かったじゃないユメちゃん。依頼のほう、どうだった？」
「はい。一応、成功だったと思うんですけど……」
「一応？」
「はい」
「えーっと、ユメちゃんへの依頼って、確か……」
「『魔法で恋を成就させてくれ』です」
「あ、そうそう。それで、一応って言うのは？」
「えーっと、まぁ、恋愛にもいろいろな形があるって言うことで」
　アハハとユメは愛想笑いを浮かべる。
「でも小山田先生、これだけははっき言えます。わたすの魔法、間違いなく二人の仲を進展させるきっかけにはなりました。わたすは自分の使った魔法が正しかったと、信じています」
　いつになく自信たっぷりのユメを見て、小山田の表情からも自然と笑みがこぼれる。
「それはいいことしましたね。正直、僕は魔法で恋愛成就と言うのはどうかと思ったんですが、きっかけ程度なら。二人が結ばれるといいですね」
「はい！」
　ユメも満面の笑みで答える。
「それじゃあユメちゃん、もうすぐご飯だから」
「はい」
　ユメは元気よく答えると、自分の部屋へと戻っていった。

　その夜――
　シャワーも浴び、パジャマに着替えて、後は寝るだけと言う状態になったユメは、いつものように日記を書いていた。
『今日はとても貴重な体験をしました。わたすに初めて直に依頼が来たんです。本当は然るべき手続きをとらなければいけないんだけど、依頼人が異世界からやってきた妖精さんだったので、例外扱いとして処理しました。小山田先生には大分迷惑をかけちゃったかも。ケラさんやミリンダさんには感謝感謝っで頭が上がらないです。もちろん、瑠奈ちゃんにもね。でも、妖精ってあんなににぎやかなものなのかな？わたすのイメージとかなり違ってたです。もし遠野で河童が発見されたときも、お酒を持って「飲めや！」とかやったりして』
　ここでペンを置き、袋の中に入ったクッキーを１枚手に取った。下北沢に戻ってくる間際にエリスから渡されたモノで、向こうの時間で昨日の家庭科実習でかりんが焼いた特性クッキーだという。
「あの二人、元気でやってるかな……」
　窓の外に広がる星空を見ながら、かりんと功司の顔を思い浮かべ、ユメの表情から自然と笑みがこぼれた。
「わたすが恋のキューピッド……ちょっとガラじゃないかも」
　そしてクッキーを口の中に放り込む。
「……うっ……」
　瞬く間にユメの表情が青ざめていき、ユメはコップに入っているオレンジジュースを一気に飲み干した。